開業のきっかけは?

 大学病院の仕事にもやりがいはありましたが、やはり勤務年数が上がるにつれて「教育」「臨床」「研究」以外の仕事にも追われるようになりました。今後の人生や働き方を考えたとき、漠然とですが開業を意識するようになりました。とはいえ、開業すると経営に取り組まないわけにはいきません。そのため、「このまま富山や故郷の千葉県の市中病院で勤務するほうが自分には向いているのでは?」とも考えました。

 しかし、富山県には医療機関が富山市に偏っているという地域特性があり、多くの他の市町村の住民は、何かあったら富山市の病院まで来なければならないと言う負担がかかっていました。また、市中病院は「一人医長」のケースも多く、同じ一人ですることなら、より患者さんの負担を少なくできる場所で診療することが私に出来る社会貢献であると考え、富山県の医療機関が少ない地域で開業することにしたのです。

現在地を選ばれた理由は何ですか?

 開業にあたり、まず当時の勤務先の富山大学附属病院の教授に相談し、各市町村の眼科医の分布などを聞きました。そのなかで、開業医がいない、あるいはご高齢の開業医のみの地域を中心に土地探しを始めました。開業した友人たちからは、「開業するときに一番大変なのは土地探しだ」と聞いていたのですが、幸いなことに開業支援を依頼した日医リースの担当者さんが地元の銀行や役場、地主の方などに働きかけてくれたので、苦労はしませんでした。聞くと、地域の方々も、地元に医療機関がほしいという声が多かったらしく、開業の相談についても好意的だったようです。

 最終的に、個人所有の良い土地があり、オーナーにも「ぜひ立山町で開業してほしい、気に入らなければ知り合いにも声をかけて良い土地を探してくる」と言っていただいたので、現在の場所に決めました。初期費用を抑えるため借地にしましたが、破格の値段で借りることができました。

設備や診療面でこだわった点はありますか?

 わざわざ富山市まで車で通わなくても、検査から手術まである程度ワンストップで当院が対応できる体制をつくりたかったので、手術室を設けるのはもちろん、検査機器などもこだわって選びました。希望的観測も含め、いずれ周辺地域全域から患者さんが来院されても対応できるように、診察室も2部屋設けるなど、スペースも確保しました。また、基本的に高齢の方が多いため、診察室にも立ち居をしやすくする補助手すりをつけるなど、建築士さんのご協力のもと細部まで気をつけました。あとは、車移動が中心かつ降雪地域なので、少しコストはかかりましたが、駐車場には融雪装置も導入しました。

 そして、もう一つのこだわりとして、私は医師の仕事を、「緊急停止した電車のアナウンス」のようなものと考えています。患者さんは身体のトラブルからいつ再出発できるかわからず不安を抱えています。もちろん、治療で治れば一番ですが、私の専門の緑内障など、悪化を遅らせても完治は難しい疾患もあります。だからこそ、検査結果から疾患の詳細、治療法などをきちんと説明し、不安を取り除くことが重要です。

 そこで、検査画像や目の動画を撮影して実際に見せながら説明するほか、iPadで説明補助の動画を見てもらうなど、言葉だけではなく視覚的な資料も多用しています。また、CASIA(前眼部OCT)やOCTの結果も、患者さんの隣にモニターを設置し、医師と同じ画像を見てもらいます。こうした説明のため、画像や動画撮影ツール、画像ファイリングシステムにもこだわりました。

 ただ一方、手術室などの収納はしっかり用意したのですが、スタッフ用のバックヤードの収納も、もう少し確保しておいたほうがよかったと、実際に開業して利用するなかで感じています。

最も高額な設備は何ですか?

 前眼部OCT「CASIA2」です。現状、急性緑内障発作を疑う狭隅角眼や角膜移植後、外傷後毛様体剥離の3疾患でしか算定できませんが、点数外では白内障手術前の精密な測定や手術中の眼内レンズ挿入時の自動計算、緑内障手術後の濾過胞の測定など、多彩な機能で患者さんに有用な情報や治療の提供につながるので、十分導入する価値はあると考えました。

 また、緑内障が専門なので、OCTも診断困難な症例でも逃さず診断できるように、高価でも自分が納得できる機能のものを選びました。

開業初日の患者数はどのくらいでしたか?

 30人でした。新型コロナの影響で内覧会が中止になるなどの事態もありましたが、徐々に地域の眼科医療の拠点になれればと思います。

日医リースがお役に立てたことは何ですか?

 日医リースさんには、開業に関して右も左もわからないなか、開業地探しや事業計画書の作成など「リース会社さんのお仕事なんですか?」と思うようなところまで対応していただきまして、本当に助かりました。

これから開業を考えている方へのアドバイスをお願いします

 保険診療の点数こそ一緒ですが、都会と田舎では、駐車場の必要性や降雪の有無、高齢化率など、経営面の考え方は異なると思います。たとえば、当院は高齢者が中心なので、スタッフは全員認知症サポーターを取得してもらいました。患者さんが極力ここで必要な治療を受けられるようにすることが、地域における当院の役割です。眼科激戦区では売りとなる専門性が必要などと聞きますが、当院のような地域では逆に、全般的にこなせることが一つの売りになるのかもしれません。

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雄山アイクリニック
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