開業のきっかけは?

 一つは、勤務医の場合は自身の判断や意向だけで決められることが限られていると、以前から感じていたことです。特に、新型コロナウイルス感染症の流行中は、予定されていた東京五輪への帯同も病院の判断で許可が下りなくなったなど、大変苦しい思いをしました。もう一つは、私や家族人生設計を改めて考えたことです。40歳で長子を授かったのですが、成人するころには私も定年に近い年になっています。定年後も他の病院に移籍したり、嘱託医に就いたりも可能でしょうが、できれば生涯現役で自分のやりたい医療に注力したいと思い、開業も1つの選択肢だと考えていました。

 こうした理由で2020年ごろから開業を意識し始め、21年から本格的に準備を開始しました。

開業にあたっての自院の理念・コンセプトは何ですか?

 診療名にも「スポーツ関節クリニック」とあるため、プロアスリートや学生向けと思われそうですが、私にとってスポーツとは、日常活動の延長線上にある極致だと捉えていて、スポーツでの障害を突き詰めていくと、一般の方でも同様の機序で痛みが発生していることが多くあると思うようになりました。そのため、趣味で運動を楽しむ、または運動をあまりしないような一般の人たちにも、スポーツ医学に基づいてフィードバックを提供したいというのが、開業準備時からのコンセプトでした。

現在地を選ばれた理由は何ですか?

 郊外へ行くほど競合も少なく土地も広いので、軌道に乗せやすいだろうとは思いましたが、あえて荒波にもまれる環境で頑張りたいと、当初から街中での開業を考えていました。なかでも、中央区は学生時代から縁があり今の自宅からも通いやすい立地で、自分が高齢になっても診療を続けられそうだとも感じていました。

 そして、探しているタイミングに空き物件として募集されていたのが、今の場所です。実は、同じ建物内に私の母が住んでおり、以前から空いているテナントがあるのは知っていましたが、そのときは募集されていなかったのです。募集が始まったと知って一目でビビッと来たので、次の日には相談に行きましたね。当初から自院で診断まで行える体制は整えたいと思い、MRIの設置と広いリハビリスペースは設けたいと決めていました。その意味でも、100坪あるこの物件は適切でした。

診療体制や設備でこだわった点はありますか?

 先述したMRIは超伝導型0.55テスラです。当初はコスト面から永久磁石型0.5テスラを検討していましたが、コロナ禍の影響などで物件の工事が遅れている間に前者が新しく発売され、画像を見ても病院で使うような1.5テスラタイプにも負けない画質だったので、こちらを採用しました。これに関しては、怪我の功名だったと思います。

 また、リハビリや運動療法では、トレーニングマシンやレッドコードといった一般的な整形外科ではあまり置いていない器具を導入したほか、仮想空間を走行できるフィットネスバイクや、動作解析を行う筋電図計(モーションキャプチャー)も取り入れています。特に、動作解析はアスリートへの診療経験からも、痛みの原因である日ごろの動作や筋肉の使い方を、口頭の説明やリハビリスタッフの指導だけで理解してもらうのはなかなか難しいと感じていたので、客観的に “見える化”することで、患者さん自身での行動変容につながればと思っています。

 スタッフは、受付、看護師、リハビリ助手、作業療法士、理学療法士などを採用しています。特に、PTにはスポーツチームでの経験もある人にも来てもらっています。これは、そのノウハウを患者さんに活かしてもらうのはもちろんですが、これまで一般整形外科でのリハビリが主だった他のPTにもそれを吸収して成長してもらいたいという狙いもありました。なお、医師である私1人の評価だけではなく、知人のPTとトレーナーに依頼して、同じ職種の視点から二次面接をしてもらい、スキルや伸びしろを感じる方を採用させていただきました。

最も高額な設備は何ですか?

 やはりMRIです。

開業初日の患者数はどのくらいでしたか?

 初日は37人でした。

日医リースがお役に立てたことは何ですか?

 開業地探しや内見の立ち合い等開業に向けて動き出した最初からずっと支援していただきました。

最後に、今後の展望は?

 コンセプトでお話ししたとおり、一般の方々へスポーツ医学の観点からフィードバックしていくことが目標なので、地域医療に密着し、整形外科のボリュームゾーンである高齢患者さんをはじめ、痛みに悩む方がまず相談に来ていただけるような場所になれればと思っています。また、リハビリスタッフには今後、地域に出て指導や企画に取り組んでもらいたいと、今も少しずつ動き始めているところです。

Information

まつい整形外科 桜坂スポーツ関節クリニック
810-0023 福岡市中央区警固3-6-1 クラシオン桜坂102
WEB:https://matsuiseikei.com/