はじめに

 2018年1月1日より改正職業安定法が施行されました。職業安定法(以下、職安法)は、労働者の募集や職業紹介、労働者供給の基本的ルールが定められている法律で、公共職業安定所に求人票を出す際に明示すべき事項をはじめ、企業が人材募集をする際の対応等が規定されています。昨今では、採用時の労働条件等のミスマッチが原因で、求職者や入職直後の労働者との間でトラブルになるケースも多くみられます。本号では、職安法の改正のポイントを解説するとともに、医療分野における人材紹介事業の動向を確認します。

最低限明示すべき労働条件等

 クリニックが求人活動を行う際に、具体的にどのような内容を求人票に記載すべきでしょうか。職安法では従来より、業務内容や期間の定めの有無、就業場所、勤務時間、賃金、社会保険・労働保険の有無の記載が求められていますが、本改正では、さらに次の項目が追加されています。

  ①雇用主の氏名または名称

  ②派遣労働者として雇用する場合はその旨

  ③試用期間の有無、及びその期間、期間中の労働条件

  ④裁量労働制を採用している場合はその旨

  ⑤固定残業制を採用している場合はその旨

 近年多様化する雇用形態や勤務形態の影響もあり、いわゆる「みなし時間制」「みなし残業制」を導入している事業所では、その仕組みについて明示する必要があります。

 なお、これらの労働条件の明示は、募集を行う際もしくは求人申し込みがあった際に、書面によって交付することが原則となりますが、求職者が希望した場合は、電子メールにより交付することも可能です。

 これらの項目については、最低限求められている項目(図表1)ですので、求職者、求人者相互のミスマッチを防ぐためも、可能な限り多くの情報について、働く側の視点に立って提供していくことが望ましいでしょう。特に最近の求職者は、仕事よりプライベートを重視する傾向があります。休暇や福利厚生、平均的な残業時間、勤務シフトのパターン、院内での日常業務の流れ、クリニックの特徴などは、職場を選ぶ上での重要なポイントとして注視していると認識し、丁寧に伝えていきましょう。

労働条件に変更があった場合の変更明示

 上記のような配慮をしていた場合であっても、求職者に提示した求人票や募集要項から労働条件を変更せざるを得ないケースもあります。具体的には、求職者が当初想定していた経験や能力を満たしておらず、明示していた給与から減額したい場合や、手当の対象とならないようなケース、逆に、基本給や手当が増えるなど、求職者にとって有利となるケースです

 その場合には、労働契約締結までの間に、求職者に対して変更内容を速やかに明示することが求められることとなりました。労働条件通知書において変更部分に「アンダーラインを引く」、「着色する」、「注釈をつける」もしくは「変更前後の労働条件を比較対照できる書面を提示する」などの方法で、変更内容が分かるようにする必要があります。

 また、募集当初の求人票を見直すことなく、そのまま公表し続けているケースがよくみられます。求職者が見た内容と事業者側の本来想定している条件に差異があると、ミスマッチの原因となりますし、一つの小さな懐疑がクリニックの信頼を脅かすものにならないとも限りません。公表内容の定期的な見直しに加え、応募があった際には、必ず「どの媒体を目にして応募してきたのか」を確認し、「その媒体を改めて確認し面接に臨むこと」が基本となります。

 当初明示された労働条件は「その募集が終了するまで」、もしくは「その募集内容で労働契約を締結するまで」、保存しておくことが義務付けられました。面接をする院長先生と求人票を作成する事務スタッフが連携して、しっかりとした手続きをしていきましょう。

職業紹介事業者に求められる義務

 ここ数年、医療の現場では、一部の職業紹介事業者による高額な紹介手数料や早期退職の勧奨などの不適切な対応が問題となっていました。医療業界に限らず、介護や保育、飲食業などの人材不足が深刻な業種において、同様の事態が起きています。職安法では、こうした公共職業安定所以外の職業紹介を行う事業者の運営ルールについても定められており、主な点として以下が改正されています。

  ①職業紹介の実績を情報公開する義務(以下、一部を抜粋)

  ・各年度に就職した人数

  ・6ヶ月以内に離職した人数

  ・手数料に関する事項

  ・返戻金制度の導入の有無とその内容

  ②紹介した求職者への対応に関する留意点

  ・就職後2年間の転職の勧奨を禁止(義務)

  ・手数料に関する返戻金制度の導入(任意)

  ・求職者、求人者双方の手数料の明示(義務) 

 実績の情報公開に関しては、新たに義務化された事項となりますので、職業紹介事業者が、これらを明示していない場合は違法となります。はじめて利用する職業紹介事業者は、必ずその実績等を確認するようにしましょう。

 早期に退職した場合等における手数料の返戻金制度については、職業紹介事業者の任意の設定となっています。そのため、制度を設けていなくても問題ありませんが、有無について確認しなかったために、後々トラブルに発展したというケースも多くなってきていますので、この点も確認するとよいでしょう。

 今改正により、一部の不適切事例のような運営事業者が見直されれば、求人活動の選択肢は広がると考えられます。当然ですが、紹介されてくる求職者に対しても、明示すべき労働条件や変更明示に関するルールは適用の対象となります。

変遷する労働法制への対応を強化しましょう

 職安法に、求人実務に直結する重要なルールが規定されていることをご確認いただけたと思います。本誌でもたびたび取り上げておりますが、職安法だけでなく、労働契約法、育児介護休業法、若者雇用促進法など労働法制については、国の働き方改革の流れを受け、ここ数年非常に目まぐるしく変わってきています。また、働きたい人のニーズの変化も相まって、日本の働き方そのものが、大きな転換期を迎えています。

 医療の現場を支えるのは、一人ひとりのスタッフだということを常に意識しながら、医療の質、患者へのサービスの維持向上に向けた、雇用環境の整備、職場環境の改善を図っていきましょう。