深刻さを増すモンスターペイシェント問題

 医療関係者に対し過度な要求や理不尽な対応を繰り返し求めてくる。それだけでは足らず、暴言や暴力に訴えてくる「モンスターペイシェント」と呼ばれる患者やその関係者等。医療に対する安全意識の高揚と、医療がサービスとして公的に認識された1990年頃より徐々に目立つようになり、現在では医療経営者が抱える問題のひとつとなっています。

 ある民間会社の調査では、7割近くの医師がモンスターペイシェントに遭遇したことがあると回答しています。看護師や事務員などの医師の周辺にある職員も含めれば、医療に携わるほぼ全ての方々が、何らかの形で遭遇している可能性が考えられます。しかし、早急に対策を講じる必要がある一方で、多くの医療機関では診療を拒否するなどに留まり、具体的な対応には至っていないようです。

 今回は、あるクリニックの事例から、モンスターペイシェントとどのように向き合うか、対策に必要な視点について考えてみましょう。

執拗かつ陰湿な行為には毅然とした態度で臨む

 内科を営むPクリニックは「患者の気持ちに寄り添う」をモットーに、患者やその家族との対話を大切にした診療を行ってきました。ある日、患者の娘が「治療後、母の体調が悪化した。医療ミスなのではないか。説明して欲しい」とクリニックにやってきました。院長が丁寧に説明し一度は納得されたようなのですが、それ以降、度々来院されては説明を求めるようになり、気付けば院長の対応時間が4時間を超える日も。気持ちに寄り添うことは大切だけれども、伝えるべき内容は十分に伝えているし他の診療への影響もあるからと、対応を看護師に任せたところ、「医師が対応しないとは何事か!」と激高してしまいました。それからと言うもの、連日長時間に渡りクリニックに居座り、大声を張り上げては院内を歩き回るようになってしまいました。

 この事例の場合、家族である娘が説明を理解できていないと思われる場合は、伝える内容や時間を工夫しながら説明を続けるべきですが、説明自体を理解しようとしていない場合には、医療機関側は必要な事柄を全て説明したと判断し、社会的限度を鑑みながら、説明をやめるということは差し支えないと考えられます。

 また、今回のように大声を出すなどの迷惑行為や、「対応をネットで公表する」など脅しに値する行為、医師や看護師へのストーカー行為、不当な理由による診察料の不払い、暴力行為など、執拗かつ陰湿な行為によるものは、警察や司法の協力を得て、毅然とした対応をしていく必要があります。

正当な要求かを見極め対策を講じること

 モンスターペイシェント対策においては、問題行動が始まった「事の発端」について考え、「正当な要求」として対応すべきかどうかを冷静に判断し対応にあたることが重要です。

 患者の多くは、病気を抱え不安定な心情にあります。また、将来への不安や死に対する恐怖から、つい自分本位な行動や発言に至ってしまうということもありがちです。医師や看護師が患者やその家族等を慮ってとった対応が、余計な不安や不信感を抱かせる結果となり、理不尽な要求にエスカレートしてしまったというケースもあります。「正当な要求」が潜んでいるのかを見極めるためにも、情報の行き違いがないよう相談窓口を一本化させるととともに、相手の話をよく聞き真意を確かめ、複数の職員で交渉や対応にあたることが求められます。

 一方で、最近では要求の理由や動機がまったく理解できない、恐怖や驚異だけを抱かせるだけの「不当な要求」をしてくるケースが増えていることも事実です。医師法第19条第1項の「正当な事由」の捉え方から、診療治療を拒むことは憚られると考え、自院だけで何とか解決しようとした結果、事態が深刻化してしまったといった事例も多く見受けられます。しかし、こうした方々が行う行為の多くはこれまでの想定を超えるものも多く、放置すれば病院経営どころか医師や看護師がメンタル面でダメージを受けるなど、組織のみならず個々人が大きな被害を被ることになります。院内における対応方針の統一や緊急対応、通報のルールづくり、弁護士や警察など関係機関との連携、職員同士の情報共有のしくみづくりなど、あらゆる手当てを講じ、組織的に対応にあたれるようにしていきましょう。