Q:当院は正規職員や有期契約職員には賞与を支給していますが、アルバイトには支給していません。最近「同一労働同一賃金」の話をよく耳にしますが、アルバイトにも賞与を支給しなければならないのでしょうか?

A:

 同一労働同一賃金は「労働の内容が同一であれば、正規職員や非正規職員に関わらず同一の賃金を支払うべき」という考え方です。厚生労働省の同一労働同一賃金ガイドラインでは、賞与については次のように明記されています。

「ボーナス(賞与)であって、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給するものについては、同一の貢献であれば同一の支給、相違があれば相違に応じた支給を行わなければならない」また、問題となる例として、「正規職員には職務内容や業績等への貢献等に関わらず全職員に何らかの賞与を支給しているが、非正規職員には支給していない」場合を挙げています。一方、問題とならない例としては、「生産効率及び品質の目標値に対する責任を負い、未達成の場合には待遇上の不利益を課されている労働者に賞与を支給し、責任を負わず、未達成でも不利益を被らない労働者には賞与を支給していない」場合としています。

 つまり、賞与については、「職務内容や貢献等に関わらず正規職員には支給し非正規職員には不支給とすることは問題」となり、「目標達成の責任や未達の場合のペナルティーとバランスのとれた範囲内での不支給は問題とならない」ということです。

●アルバイトへの賞与不支給を違法とした判例

 実際の判例を見てみると、大阪医科大の訴訟(大阪高裁2019年2月15日判決)では、平日5日間、1日7時間程度の勤務形態で、時給制の50歳代の女性アルバイト職員に賞与を支給しないことが労働契約法に違反するとし、法人はこのアルバイト職員の2年分の賞与約70万円を含む約110万円の賠償を命じられました。

 裁判所は判決で、大阪医科大の賞与が基本給にのみ連動しており、職員の年齢や成績、法人の業績などには一切連動していないものと評価されました。つまり、大阪医科大の賞与は「賞与の算定期間に在籍し就労していたこと、それ自体に対する対価(功労報償)」の性質があると判断され、アルバイト職員も就労していること自体は同じであることから、正規職員との相違は不合理であるとされました。ただし、賞与の金額については、有期契約職員(月給制)には正規職員の約8割の賞与が支給されていたことを踏まえ、アルバイト職員には正規職員の6割の支給が妥当と判断されました。

●自院における賞与の性質を明確にする

 大阪医科大の判例では「アルバイト職員に賞与を支給しないことは違法」であるとされましたが、賞与には功労報償や将来の労働意欲向上等の多様な趣旨が含まれているため、実際に自院のケースで検討する際のポイントとしては「自院で支給されている賞与にはどういった性質があるか」です。例えば、正規職員の賞与が勤続年数や成績に連動し、正規職員のモチベーションアップのために支給されているのであれば、そこにアルバイト職員との格差があったとしても、直ちに不合理とはなりません。従って、まずは自院における賞与をどのような趣旨・目的で支給しているのかを明確に定義付ける必要があります。

●賞与の支給基準を明確にする

 先述のとおり、賞与には多様な趣旨が含まれていることから、院長等の使用者に広い裁量が認められています。ただし、功労の評価や分配の基準によっては、相違や格差が不合理となる場合もあるため、今後、以下の対応も検討が求められます。

  1. アルバイトも対象とした人事評価制度を導入し、適切な運用(公正性、透明性を担保すること)を図る。

  2. 人事評価の結果、賃金等の処遇が連動して決定される仕組みとする。

  3. 何をもって評価するか、評価基準を具体的、かつ、明確にしておく。

  4. 役職、等級、職種等の応じた役割と責任の度合いを明確にしておく。

 

 ガイドラインや判例は、あくまで同一労働同一賃金の考え方を把握するための参考ですので、実際に自院の中で均等均衡待遇が確保されているかどうかは個別に検討を行っていく必要があります。そのうえで、もし賃金の格差を説明できないものがあれば、専門家などの意見を踏まえながら、自院の賃金のあり方について見直しを行っていただければと思います。