医療従事者の採用手段として、民間の有料職業紹介事業者(人材紹介会社)を活用するケースは多くみられます。人材紹介会社は、クリニックが求める人材や条件に基づき求職者を紹介してくれるため、採用にかかる手間や時間を大幅に削減することができます。一方で昨今、人材紹介会社との間で紹介手数料の支払いや人材のミスマッチなどを原因としたトラブルが問題となっています。こうした状況を背景に、2021年8月に「医療・介護・保育分野における適正な有料職業紹介事業者の認定制度」が創設され、一定の要件を満した有料職業紹介事業者を「適正な有料職業紹介事業者」として認定しています。本稿では、本認定制度の概要と人材紹介会社の活用のポイントについて解説します。

 

医療機関における人材採用の現状

厚生労働省が公表している2022年1月の有効求人倍率は1.20倍で、医師・保健師等をはじめとする医療従事者については、いずれも2倍以上でさらに高い状況にあります(図表1)。厚生労働省の「看護職員需給分科会」によると、2025年には少なくとも7万人の看護師が不足すると推計されており、今後も地域内での医療従事者の獲得競争は避けられない状況と言えます。

 

(図表1)有効求人倍率【一部職種別】(2022年4年1月)

有効求人倍率

全体

医師、薬剤師等

保健師、助産師等

医療技術者

令和4年1月

1.20

2.03

2.22

3.11

出典:厚生労働省「一般職業紹介状況」(令和4年1月分)を参考に作成

 

また、採用及び求職活動の現状をみると、医療機関等が活用する採用手段としては、民間職業紹介事業者が最も多くなっており(図表2)、求職者が利用する手段としても民間職業紹介事業者が他の手段を上回っています(図表3)。地域によって採用ルートや利用する媒体は異なることが想定されますが、人材紹介会社の活用は昨今のトレンドの一つと言えます。

人材紹介会社を活用するメリット・デメリット

比較的小規模な医療機関では、人事や採用に関する事務員を配置することが難しいため、採用実務を実質的に代行できる人材紹介会社の活用は、大きなメリットがあります。加えて、先述のとおり、求職者も人材紹介会社へ登録(活用)している割合が高いため、マッチングの可能性も高いことが期待されます。一方で、紹介手数料の支払いは最大のデメリットで、通常、採用決定者の年収(初年度の理論年収)の35%程度の費用がかかります。

 

(図表4)人材紹介会社の活用のメリット・デメリット

メリット

デメリット

 ・採用にかける手間・時間の削減

 ・求める人材・条件等をリクエストできる

 ・登録者(利用する求職者)が多い

 ・非公開での採用が可能

 ・紹介手数料が高額

 ・登録者のみが対象

 ・採用のノウハウが蓄積されない

 

 

また、人材紹介会社との間でのトラブルも一部で報告されています。「トラブルは特にない」という回答が最も多かった反面、「早期退職」や「ミスマッチ」、「紹介手数料に関する事項」などが原因でのトラブルが比較的多く、なかには「事業者からの転職勧奨」やいわゆる「お祝い金」の提供(自社が紹介した職場を優先的に選択するよう迫る意図)など、職業安定法などの関連法令に違反する事例も見られます(図表5)。

適正な有料職業紹介事業者の認定制度の概要と認定事業者件数

こうした状況を背景に創設された医療・介護・保育分野を対象とした認定制度では、2021年11月に初めて19社34分類(医療15,介護12,保育7)、2022年2月には16社19分類(医療13,介護4,保育2)が「適正な有料職業紹介事業者」として認定を受けています。認定審査は、先述したトラブル事例も考慮した内容となっており、事業者のサービス内容や品質管理、費用等についての概要を事前に知ることができます。認定を受けている事業者は、厚生労働省のホームページ等(※1)で確認することができます。

 

(※1)厚生労働省「医療・介護・保育分野における適正な有料職業紹介事業者の認定制度」

    https://www.jesra.or.jp/tekiseinintei/

 

【認定の基準】

認定の基準は、図表6の「チェックシート」に基づき、事業者が「必須」基準と「基本」基準をどれだけ満たしているかによって判定されます。

●必須基準:

・法令遵守を含めて、適正事業者として必ず実施しなくてはいけない事項(基準)

すべての事項(14項目)を満たしている必要あり

●基本基準:

・求職者や求人者に配慮したより良いサービスを提供するために、適正な事業者として実施することが望ましい事項(基準)

・すべての事項(11項目)のうち7割程度を満たしている必要あり

人材紹介会社の活用のポイント

人材紹介会社は全国で約3万社あり、本認定制度の認定を受けていない事業者の方が多いことは明らかです。人材紹介を活用する際には、いくつかの事業者と利用方法や料金などについて事前に協議し比較検討することになると思いますが、その際に認定制度のチェックシートの項目を確認することはトラブルを未然に回避する上で非常に有効です。認定を受けていない事業者であっても、チェックシートの項目について適正に対応できるのであれば、安心して選択肢に加えることができます。これらの手間を惜しんで、闇雲に人材の紹介を依頼すると、クリニックが求める人材をなかなか紹介してもらえなかったり、採用できたとしても早期離職により手数料だけがかさんでしまったりと、思うように採用が進まないことも懸念されます。求める人材像や条件などを事業者と共有できていれば、継続的に良い人材を紹介してもらえる可能性が高まります。そのためにも、長く付き合うことができる事業者をきちんと選択するようにしましょう。