我が国が抱える社会問題のひとつに「所有者不明土地」が挙げられます。所有者不明土地とは、不動産登記簿上に登記されている所有者の所在が不明である土地を指し、主に相続等の際に必要な手続きを行わなかったことなどが原因と言われています。国内の所有者不明土地は約400万ha(国土の約1割)に及ぶとされており、2040年頃には北海道の面積(約780万ha)に迫ると推計されています。所有者不明土地の増加により、以下の問題が懸念されています。

 ・土地の売却・賃貸等の停滞が、有効活用・経済活動の妨げになる

 ・土地が放置されることで、衛生環境や治安の悪化を招く

 ・防災対策や土砂崩れ対策など、必要な公共工事の妨げとなる

 

 このような状況を受け、2023年4月より関係法令の一部が順次改正されています。改正される主な法律は次のとおりです。

 ①  不動産登記制度(不動産登記法)の見直し

 ②  相続土地国庫帰属制度(相続土地国庫帰属法)の創設

 ③  土地利用に関連するルール(民法)の見直し

 

今号では、所有者不明土地の取扱いルールについて、新たに見直されるポイントを解説します。

相続による所有権の移転登記の義務化(不動産登記法の見直し)

所有者不明土地が発生する主な原因として「相続により取得した土地の所有権移転登記は“任意”であった」ことが挙げられます。相続人が単に登記を失念している、登記費用や手間を考慮し手続きを行わない、複数の相続人がいる場合に他の相続人が手続きに協力してくれない、自身が相続したことを認知していない、など諸々の事情があったとしても、相続人は直ちに登記をせずとも法律上支障がなかったため、結果的に正しい所有権者が不明となってしまうことが多く発生していました。この状況を解消するため、20244月から「相続登記が義務化」され、現在、所有者等の変更登記がされずに放置されている土地も義務化の対象となります。相続登記は、相続等により不動産を取得した(又は取得したことを知った)日から3年以内に申請を行う必要があります。また、遺産分割協議が行われた場合は、遺産分割が成立した日から3年以内に、その内容を踏まえた登記を申請する必要があります。正当な理由がないのに申請をしなかった場合には、10万円以下の過料の適用対象となります。

 

「相続人申告登記制度」について

先述のように、登記手続きを行いたいが「他の相続人が協力してくれない」又は「遺産分割協議がまとまらない」際の救済的手段として、「相続人申告登記制度」が同じく2024年4月から施行されます。自身が相続人の一部である場合にこの申し出をすることにより、相続登記の申請義務を果たすことになります。

不動産登記法関連の制度は、紹介したもののほか、順次、以下の制度の施行が予定されています。

 2024年4月から施行

 ・DV被害者等を保護するため登記事項証明書等に現住所に代わる事項を記載する特例

 2026年4月までに施行

 ・住所等の変更登記の申請の義務化

 ・親の不動産がどこにあるか調べられる「所有不動産記録証明制度」の創設

 ・他の公的機関との情報連携により所有権の登記名義人の住所等が変わったら不動産登記にも反映されるようになる仕組みの導入

 

相続土地国庫帰属制度の創設

所有者不明土地の発生事由の中には、「維持・処分に困るので敢えて取得(・登記)をしない」というケースも考えられます。地価・評価額が低い土地で買い手・借り手が見つからないと想定される場合などに相続を「放棄」することも認められますが、相続放棄は「3ヶ月以内(相続の開始があったことを知った時から)」にしなければならず、この期間に手続きが行われないと相続を承認したこととなります。「相続土地国庫帰属制度」は相続や遺贈によって土地を取得した所有者が「負担金」を納付することで、その土地を国に引き渡す制度です。この制度は、2023年4月27日に施行されました。

〈制度のポイント〉

 ・売買などにより取得した土地は対象外

 ・所有者が法人である土地は対象外

 ・負担金は20万円程度(土地の種目・面積等による)

 ・負担金と別途、審査手数料(14,000円/1筆)が必要

 

土地利用に関連するルール(民法)の見直し

土地の利用に関するルールを定める民法については、いくつかの項目に関して改正が施されました。

 

①  遺産分割ルールの見直し(2023年4月から)

先述した「遺産分割協議が整わないケース」を解消するため、「被相続人の死亡から10年を経過した後の遺産分割は、原則として法定相続分又は指定相続分(遺言による相続)によって画一的に行う」こととされました。法定相続又は指定相続によらない遺産分割協議は、10年以内に決着させなければないルールへと見直されました。

 

②  共有制度の見直し(2023年4月から)

先述した「他の相続人が相続登記に協力してくれない」ケースなどを解消するため、複数の相続人・所有者(=共有者)がいる場合の土地の利用等ルールが以下のとおり見直されました。

共有物の利用に関するルール

所在等が不明な共有者がいるときは、他の共有者は地方裁判所に申し立て、その決定を得て、残りの共有者による管理行為(貸すなどの行為)や変更行為(売るなどの行為)が可能。

共有関係の解消に関するルール

所在等が不明な共有者がいる場合、他の共有者は地方裁判所に申し立て、その決定を得て、所在等が不明な共有者の持分を取得したり、その持分を含めて不動産全体を第三者に譲渡したりすることが可能。

 

③  土地や建物の財産管理制度の創設(2023年4月から)

所有者が不明な土地又は建物が長期間放置されることで、衛生環境や治安の悪化などにより、実害が生じる恐れがある場合は、その土地の利害関係人(近隣住民など)が地方裁判所に申し立てることで、その土地・建物の管理を行う管理人を選任してもらうことができるようになりました。これにより、不動産の管理・保全の適正化が期待されます。

身近に潜む不動産の諸問題

今回紹介した問題は、クリニック経営に加え個人の生活や財産管理など、身近にその可能性が潜んでいるものと言えます。昨今では、住宅街を歩けば誰が住んでいるのかわからない家屋や、長い間草木が生い茂ったままになっている土地などをよく目にします。国土交通省では、「所有者不明土地ガイドブック(迷子の土地を出さないために!)」を公表するとともに、各地方公共団体の連絡窓口を公開しています。職場や自宅の裏側やそのような状態であった際の対処方法や、自身が所有権を有する不動産の管理などについて、本稿と併せて参考にいただければと思います。

 

国土交通省:「所有者不明土地ガイドブック(迷子の土地を出さないために!)」

https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/content/001482580.pdf

 

国土交通省ホームページより:所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法に規定する地域福利増進事業の個別案件の相談等の地方公共団体の連絡窓口

https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_fr2_000015.html