2024年度の診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬のトリプル改定に向け、具体的な議論が始まっています。次期改定の争点の一つとなっているのが「物価高騰や賃上げ」への対応です。2022年の年平均物価上昇率は対前年比3.0%となっており、物価の高騰・高止まりが続いています。これと同様に建設費も上昇を続けており、今後、新設、増設、移設、修繕等を控える事業者の懸念が高まっています。今号では、資材価格やエネルギーコストの高騰下における医療機関の経営状況と今後の影響について解説します。

建設費の状況について

国内の建設費は、2021年に「ウッドショック」と呼ばれる輸入木材価格の高騰、その後2022年にロシア軍によるウクライナ進行を契機とする原材料・エネルギーコスト増の影響を受け、直近2年間で急激な高騰を続けています。今後「建設業の2024年問題※」などにより、この状況はさらに加速すると予想されています。医療機関(病院)や福祉施設(老健や特養)の建設費は「建設工事費デフレーター」の推移と同様の右肩上がりの傾向を示しており、首都圏に限らず全国的に上昇が続いています。直近の2022年度の建設費は、10年前と比べると、病院で約1.7倍、福祉施設では1.3~1.4倍ほどの上昇となっています。加えて最近ではICTの活用・推進の動きから、附帯設備のイニシャルコストも上がっているため、今後の設備投資にはより慎重な判断が求められます。(図表1参照)

※「建設業の2024年問題」…「働き方改革関連法案」の施行に伴う「長時間労働の是正」等について、建設関連業は5年の猶予が与えられおり、20244月からは「時間外労働の上限」などが施行される。これに伴い、労働人件費及び建設工事費の増大が指摘されている。

光熱費等の状況について

図表2の消費者物価指数(CPI)は、基準年(2015年)の家計の消費構造をもとに、各品目別の物価の変動を示しています。電気代、ガス代、上下水道代、エネルギー、いずれも年々上昇傾向にあるなか、2021年から2022年にかけて急激に上昇しています。ウクライナ情勢や円安の影響が大きな原因とされており、この対策として政府は「電気・ガス価格激変緩和対策事業」を打ち出しています。これは、国が各小売事業者などを通じて、電気・都市ガスの使用量に応じて料金を値引きするもので、この効果もあり2023年の電気代高騰は一旦落ち着きを見せています。但し、本事業は時限的な施策(現時点では2023年12月まで)であるため、2024年以降、電気代が再度大幅に値上がりする可能性が指摘されています。

 病院、診療所、福祉施設の光熱費等の状況を見ると、2021年から2022年にかけていずれも1割から3割程度の負担増となっており、物価高騰の影響を受けているのがわかります。自治体単位で物価高騰対策の補助金・交付金による経費補填が実施されてきたものの、現在では徐々に縮小されているケースも見られます。

医療機関等の経営状況について

各医療機関等の経営状況について確認します。現時点で公表されているのは2021年度ベースの決算データが最新となります。2020年に国内で新型コロナウイルス感染症の発生が確認されて以来、医療機関や福祉施設での運営休止や受入停止などが相次ぎ、2020年度の収益は全体的に大きく落ち込み、3割以上の医療法人が赤字の状況を迎えることとなりました。その後、ウィズコロナ対策の推進やコロナ関連の給付金・助成金等の拡充などにより、2021年度には若干収益が回復したものの、2022年度決算にはランニングコスト高騰の影響が及ぶと見込まれます。光熱費等を含む経費の構成割合は収入に対して20%程度であるため、これに120%程度の光熱費の上昇を加味すると、収益率は5%弱マイナスとなる計算になります。加えて、光熱費以外の費用の上昇や、最低賃金の上昇等による人件費(月給)の増額等も想定されるため、賞与の支給調整等の措置を取らない限り、単年度で収益を黒字化するのは厳しいものと見込まれます。(図表3参照)

光熱費等の高騰への対策

このような状況下での対策として、日々の節電努力や省エネ家電への買い替えなどに取り組まれる医療機関が増えています。夏期・冬期それぞれの節電チェックシートを用いて、空調設備の点検・清掃、照明の間引き、使用していないエリアの消灯などを定期的にチェックする仕組みを作ったり、対応年数が過ぎたり寿命を迎える家電を順次、省エネ家電に買い替える取り組みは、一定の効果が期待できます。省エネ家電の購入は、自治体によっては補助金事業となっているケースもあるため、これらの活用も効果的です。

 

次期改定は医療機関や福祉施設にとってこれまで以上に重要となります。診療報酬に関しては、適用時期が例年の4月から6月に遅らせる方針が決定しています。医療経営にも大きな影響を及ぼす世界経済の先行きにも、今後注目が集まります。