国内の医療施設は様々な経営主体により運営されていますが、病院の約7割、診療所の約3割を医療法人が担っています。医療法人はこの他にも介護保険事業なども併設するケースも多く、介護分野全体に占めるシェアは2割弱となっています。クリニック等の経営者は、一定の事業規模に到達する時期や今後の事業転換等を見据えたときに「医療法人化」を検討します。法人成りすることで、給与所得控除などの節税効果、退職金の設定・支給、介護保険事業などの運営といった、いくつかのメリットが見込まれます。一方で近年では、医療法人の経営は厳しさを増しており、赤字法人の割合は増加傾向にあります。法人成りを検討するにあたっては、医療法人の経営実態をきちんと把握することが肝要と言えます。今号では医療法人の経営状況について、独立行政法人福祉医療機構が公表する調査レポートを中心にその実態を解説します。

医療法人の経営状況

医療法人の赤字割合は直近の2022年において32.5%となっており、コロナ禍の2020年を除くと過去最悪の状況となっています。事業利益率はコロナ禍以前は横ばいであったものの、2020年に大きく下落し、翌年にリバウンドが見られた後、2022年は再度1%を下回る結果となっています。コロナ関連の補助金・助成金が縮小したことや物価高などが大きく影響したものと考えられます(図表1)。参考値として社会福祉法人の状況を見ると、2020年時点では医療法人ほど大きな下落はみられないものの、赤字割合は右肩上がりで増加しています。社会福祉法人には介護系のほかに保育系や障害系をメインとした法人もあり、図表2はすべての種別が統合された結果となっています。介護系の法人に関しては、直近における赤字法人の割合が40.1%と非常に高くなっており、運営する事業種別によって状況が異なります。

赤字・黒字法人の特徴

経営に苦戦する法人とそうでない法人の経営指標を確認します。図表3は黒字・赤字の医療法人の経営指標の対比表となります。赤字法人に関しては「人件費率」と「経費率」の値が大きく、この点が事業利益率のマイナスに直結しています。社会福祉法人も同様に「人件費率」と「経費率」が事業利益率に影響を及ぼしています。また、図表4をみると収益そのものにも一定の差が生じています。これを見る限りおいては、各支出費用の単価が高いというより、収益(利用率等)の減少をリカバリーしきれていない点や、それに伴う支出抑制ができていない点が赤字の原因とみられます。

運営事業ごとの状況

つぎに、医療法人が運営する病院の経営状況を類型別に確認します。全体的な傾向は図表1に準じていますが、特に一般病院の状況が思わしくなく、直近2022年においてはマイナスに転じています。図表6において、主な経営指標を確認すると、いずれの類型も病床利用率が前年度を1%以上下回り、これに対して人件費・水道光熱費等の構成割合が増加しています。同様に介護老人保健施設や介護医療院、社会福祉法人が運営する特別養護老人ホームについても利用率の微減と経費支出の増加が利益率を引き下げています。

医療施設に介護保険施設を併設することで、法人全体の収益を向上させることは選択肢として大いに考えられますが、周辺分野の経営状況も厳しくなっている点を念頭に置く必要があるでしょう。

法人規模別の経営状況

最後に法人の事業規模別に直近の経営状況を確認します。図表7を見ると、規模が小さい法人は経費の占める割合が大きくなり、この点が利益率や赤字割合に影響しています。大規模法人はスケールメリットを活かし、法人全体で支出をコントロールできているのに対し、1法人1施設の場合は経費削減に限界があり、物価高等の影響を受けやすいと考えられます。この傾向は社会福祉法人も同様で、小規模法人の経営の合理化が喫緊の課題となっています。政府は、地域医療連携推進法人や社会福祉連携推進法人などを制度化し、法人間連携の強化により小規模法人がスケールメリットを活かした運営ができるよう法的なインフラを整備しています。法人成りの際には、これらの点も踏まえ、どの程度の規模を目指していくか検証することが重要となります。

報酬改定の見通しと今後の医療法人経営

今号で紹介した内容は、コロナ禍と物価高の影響が及んだ厳しい状況下における経営状況と言えます。2024年度の報酬改定においては、この状況も鑑み、診療報酬本体は前回改定の0.43%増を上回る0.88%のプラス改定、薬価等は1%のマイナス改定となり、介護報酬も1.59%のプラス改定となっています。国内景気は緩やかに回復の兆しが見えている中、医療介護分野においては、患者・利用者や職員の確保、職員の賃上げ、ICTの導入による運営の合理化など、引き続き難しい舵取りが求められます。院の方針と長期ビジョンを踏まえ、医療を提供する上で最適な事業主体を検討いただければと思います。

 

〈参考資料〉

 独立行政法人福祉医療機構

  •   「2022年度 医療法人の経営状況について」
  •   「2021年度 社会福祉法人の経営状況について」
  •   「2022年度 病院の経営状況(速報値)について」
  •   「2022年度 介護老人保健施設の経営状況について」
  •   「2022年度 介護医療院の経営状況について」
  •   「2022年度 特別養護老人ホームの経営状況について」