重油式への不安払拭できず、BCP対策の必要性も痛感

 医療法人弘済会宮川病院は1997年、国内2位の高峰・北岳(標高3193メートル)を望む自然環境に恵まれた山梨県白根市(現南アルプス市)に移転新築した。小規模ながら、「普段通っている病院で受診できる人間ドック」をコンセプトに健診分野に力を入れているほか、2018年から地域包括ケア病床を新設し、急性期後の患者を積極的に受け入れ、地域に欠かせない医療機関となっている。

 宮川直登院長によると、阪神・淡路大震災(1995年)の発生直後ということもあり、建物の耐震補強については万全を期したつもりだが、その後も地震、豪雨などが頻発していたこともあり、「有事への備え」の大切さは常に頭から離れなかったという。とりわけ、懸念があったのが自家発電装置。災害発生時、電力系統の供給が止まった際、非常電源となる自家発電装置は病院機能を維持するうえで頼みの綱だが、導入から20数年が経過し老朽化は否めなかった。

 重油式のため、常に燃料を一定量確保しておく必要があるうえ、定期的に入れ替えを行わないと、「いざ」というときに役に立たない。「年次点検では問題なく稼働しても、重油式だと有事の際、本来のスペックを発揮できないまま、終わってしまう恐れがありました。事務長の進言もあり、新しくすることにしました」と宮川院長。東日本大震災(2011年)の後、院内で災害対策マニュアルを作成したが、職員も大幅に入れ替わっていたこともあり、改めてBCP(事業継続計画)対策など災害への体制を強化したい思いもあった。

取引業者の提案がきっかけ、半分の燃料で3日間稼働

 「災害時、患者さんや病院の職員、あるいは職員の家族を守るために必要なことは病院機能を維持することです。自分の家族がいても安心できる設備を整えたい気持ちがありました」。そう強調する宮川院長が新しい自家発電装置の燃料に選んだのは、LPガスだ。

 災害時に避難困難者が生じる医療機関や、一時避難所になるような施設を対象に、費用(機器購入・設置工事費)の一部を国が負担する補助事業「災害時に備えた社会的重要インフラへの自衛的な燃料備蓄の推進事業費補助金」制度に申請。審査の結果認められ21年12月、病院敷地内にLPガス非常用発電機災害用バルク(ガスタンク)と、非常用発電機2台を設置した。

 制度の存在は、同院と取引があった医療機器賃貸業の日医リースの担当者から教えられた。LPガス災害バルクは、耐熱性や安全性に優れた災害対応型のシステム。災害時に電気、ガスなどの供給網が途絶した場合でも、貯蔵されているLPガスによりエネルギー供給が可能だ。一般に、ライフラインの復旧には3日程度のエネルギー備蓄が必要と言われているが、ガスタンク半分の燃料で3日間もつという。

 補助金の適用を受けた場合、最低でも15年間は使用することが条件。交付限度額は設置する機器の組み合わせによって異なるが、バルク供給設備と発電機のセットでは、5000万円を上限に最大2分の1の補助が受けられる。発電機だけでなく、空調機器・燃料機器を導入すれば、冷暖房や給湯の使用も可能になる。

計画停電で苦い経験、職員との情報共有も課題に

 宮川院長は、東日本大震災後の電力不足に対応した計画停電を経験したことで、停電の怖さが身に染みたという。「計画停電を経験し、動かせるものは本当にわずかしかないことがわかりました。今は電子カルテを導入しており、新型コロナウイルス感染症のワクチンを冷蔵保存するためにも電気は欠かせません」と力を込める。実際に非常用発電機が稼働したことはないが、設置に伴う最大の効果は「安心感を得られたこと」だという。

 災害対策の柱の1つである非常用電源装置への不安がなくなり、今後はBCPの策定を急ぐ構えだ。専門機関と情報交換しながら、慎重に作業を進めているが、新型コロナや新興感染症の対応想定など難しい問題もあり、簡単にはいかない。

 また、宮川院長はトリアージや応急処置などのスキルアップを図る災害医療研修に積極的に参加して知識や技能の習得に務めているが、それを現場にどうフィードバックさせていくかも課題だ。宮川院長は「スタッフのなかで災害医療現場を経験した人間は何人もいません。現場レベルでどれだけ情報共有をできるかが大事になるため、さまざまなアプローチを考えていきたい」と話している。

Information

医療法人弘済会 宮川病院
住所:〒926-0033 山梨県南アルプス市上今諏訪1750
WEB:https://www.miyagawa-hospital.com/