熊本県天草市でデイサービス、ケアハウス、特別養護老人ホーム、有料老人ホームを運営する社会福祉法人聖和会では、災害対策として停電時に電源として活用できる電気自動車と外部給電器をデイサービスセンター聖和園に導入しています。

 同一敷地内に、グループの医療法人社団開会が運営する診療所、介護老人保健施設、グループホーム、訪問介護事業所、居宅介護支援事業所もあり、介護と医療と福祉の連携を図っています。

停電時の電源確保のため電気自動車を導入

 社会福祉法人聖和会は、2016年の熊本地震、2020年の令和2年7月豪雨など、このところ自然災害が多発している熊本県に立地しています。これまでのところ同法人は大きな被害を受けていません。しかし、災害発生時の電源確保の必要性は感じており、台風などの予報が出た際は、その都度レンタルで発電機を借りていました。これは、施設の運営維持はもとより、同法人が福祉避難所としての指定を受けているため、避難者の安全・安心確保のためにも電気を絶やすことはできないということが前提にあります。

 しかし、地震のようにいつ起こるのかわからない災害への対応も介護事業者には求められます。特に同法人では熊本地震を経験して以降、電源確保の必要性を痛感しました。発電機の購入も検討しましたが、ガスや油を燃料とする発電機はメンテナンスの手間やコストがネックとなっていました。

 より使い勝手の良い方法はないかと事務局長の島中洋さんが探していたところ、日産自動車の電気自動車「リーフ」であれば、フル充電時には、一般家庭の2~3日分の電気供給能力があるという情報を入手しました。また、日医リースの担当者から、電気自動車やプラグインハイブリッド車等から電気を取り出す外部給電器の導入にはクリーンエネルギー自動車導入促進補助金が利用できることも聞いて、導入に踏み切りました。

 2019年11月、5年リースの契約で「リーフ」1台、ニチコン株式会社の可搬型給電器「パワー・ムーバー」1台を導入しました。これは、「リーフ」から電気を取り出すために使う機器です。「発電機は、非常時に使うためだけに経費をかけることになりますが、電気自動車なら日常的に使うことができます。そこが電気自動車導入のカギでした」と島中さんは導入の経緯を語ります。

 「リーフ」は、現在デイサービスセンター聖和園に配置し、利用者の送迎に使用し、「パワー・ムーバー」は施設内に保管しています。「パワー・ムーバー」は停電時に他施設などに運び、そこで使用することもできるため、可動式のものを選んでいます。また、新型コロナウイルス感染症が収まった後には、「リーフ」と「パワー・ムーバー」の電源を用いた屋外活動のレクリエーションをすることなども検討しているといいます。

 導入時には合わせて「リーフ」用の充電設備を施設内に配置しましたが、その工事にも補助金を利用することができました。補助金申請書類作成等の作業は日医リースが担当し、島中さんは書類を確認するだけだったので、作成に伴う手間は大幅に省けたといいます。

平時から機器の使い方に慣れるように工夫

 「リーフ」の運転や充電に関しては特に難しいことはなく、すぐに職員は慣れたといいます。また一充電当たりの走行可能距離やパワーについても不足は感じていないといいます。何よりも、ガソリンエンジン車に比べて、オイル交換の必要がないなどメンテナンス費用が低くなっている点は、メリットの一つと島中さんは語ります。

 2021年度介護報酬改定において、全介護サービス事業者にBCP(業務継続計画)の策定が義務付けられました。同法人でも現在策定に向けて動いている最中ですが、食料備蓄や各種防災グッズの用意などと共に、電源確保策の一つとして「リーフ」や「パワー・ムーバー」の導入を捉えているといいます。

 BCPにおいて重要なのは緊急時用の物資を備えておくことだけではなく、職場全体で「いざ」に備えた意識を常にもっておくことです。そのため、同法人では「リーフ」の充電は75%を下回らないようにこまめに充電するなど、非常時への備えを平時から意識するように仕掛けています。

 その一方で、「パワー・ムーバー」は平時に使う機会は少ないですが、緊急時に「リーフ」との接続の仕方や電気の取り出し方がわからなくては、意味がありません。そこで、これまでに4~5回、「リーフ」と「パワー・ムーバー」を接続する機会を設け、慣れるようにしています。「『パワー・ムーバー』のコンセントを使ってドライヤーなどを動かしてみるなどの、練習をする機会を設けています。全職員が接続できるところまでは至っていませんが、定期的に練習会を開いて、もしもの時にスムーズに電源確保ができるようにしていきたいです」と、島中さんは語ります。

 なお、事前に準備をしておく必要性は、台風接近時に実感したといいます。屋外の「リーフ」と屋内の「パワー・ムーバー」を接続しようとした際、風雨を施設内に入れないようにするため、窓枠にケーブルを通すための穴を開けた板をはめこむ必要が生じましたが、その板の準備は、接続しようとして初めて気づかされました。そのため、準備に少し時間がかかってしまったと、島中さんは振り返ります。

 電気自動車の導入を検討している事業者に対して、「補助金がついているときに導入すると負担が軽減できるほか、大きな災害が起こると品薄になり納品まで時間がかかることもあるので、早めに導入したほうがいい」とアドバイスをします。

「ゆくゆくは法人の各施設に1台は電気自動車を導入し、災害への備えを整えていきたい」を島中さんは展望を語ります。

Information

社会福祉法人聖和会 デイサービスセンター聖和園
住所:〒861-6551 熊本県天草市下浦町2090-2
WEB:https://seiwakai-kumamoto.com/day/