政府が推進する「働き方改革」とは?

 安倍政権は、誰もが活躍できる「一億総活躍社会」の実現を目指し、その政策の目玉として「働き方改革」を掲げています。昨年9月より「働き方改革実現会議」が始動し、「長時間労働の抑制」や「同一労働同一賃金」などについて議論が重ねられてきました。平成29年3月には「働き方改革の実行計画」が策定される予定で、これに先立つガイドライン案なども既に公表されています。今後のクリニック経営に大きな影響を与えることが予想される本改革の概要を解説します。

現在議論されている主な事項

 働き方改革実現会議では、これまで以下の3点について重点的に議論されてきました。

  1. 長時間労働の抑制
  2. 同一労働同一賃金の実現
  3. 柔軟な働き方の普及

●長時間労働の抑制

 昨年の大手広告会社の過労死事件を発端に、日本企業の長時間労働や残業について改めて注目されるようになりました。欧米諸国と比べて労働時間が長くなる背景には、日本人の労働に対する意識や企業風土などが根底にあると言われています。
 日本では労働基準法により使用者は原則として1日に8時間、1週間に40時間を超えて労働させることができません。時間外労働をさせるためには、あらかじめ「時間外労働協定(36協定)」を行政官庁に届け出る必要があり、この場合においても、時間外は1ヶ月で45時間、1年で360時間までが限度となります。何か特別な(突発的な)事情によりこの限度時間を超える場合には、いわゆる「特別条項付き36協定」を締結する必要がありますが、一部の企業は、これを楯に「不当な長時間労働」を課しているのではと言われています。(図表1)
 現在の議論では、時間外について「月平均60時間(年間720時間)」、繁忙期に関しても「月最大100時間」「2ヶ月の月平均80時間」と上限を明確に設定し、違反した場合には罰金を課す方向で検討されています。早ければ平成30年度から導入される見込みです。
 また、これと並行して議論されているのが、終業後から次の始業開始までの間に一定時間の休息を義務付ける「インターバル規制」についてです。EU諸国では「24時間につき11時間の連続した休息(勤務間インターバル)」が義務付けられており、日本では、1月30日の参議院予算委員会において首相自ら「整備を進めていく」と発言しました。(図表2)
 突発的な勤務が発生し得る医療の現場においては、これらが全面的に適用されるのは難しい面も考えられますが、労働時間の管理にはこれまで以上に気を配る必要があるでしょう。

●同一労働同一賃金の実現

 「正規か非正規かという雇用形態にかかわらない均等・均衡待遇の確保」を目的に、同一労働同一賃金の実現が具体的になってきました。これまで「賞与は正規のみ」「必要以上に諸手当に格差がある」などの、有期雇用労働者やパートタイム労働者への不合理な待遇差が、働き方の多様化を阻害する原因と言われてきました。
 政府は昨年12月20日に「正規・非正規の間での待遇差が問題となる・ならない」を具体例で整理した「同一労働同一賃金ガイドライン(案)」を公表しました。下記にその一部を抜粋していますが、この内容以外にも「昇給ルール」や「福利厚生」などについても規定されています。
 このガイドライン(案)は、今後の国会審議を踏まえて最終的に確定される見込みですが、法的な拘束力の有無や罰則等については現時点では不確定です。しかし、法的拘束力の有無にかかわらず、非正規労働者に対する処遇や評価の基準を設けるなど、現行の人事制度・賃金体系を一度見直してみることもよいでしょう。

同一労働同一賃金の判断基準(一例)
 問題とならないケース問題となり得るケース
基本給 同じ職業経験・能力の無期雇用フルタイム労働者とパートタイム労働者について、就業の時間帯や土日祝日勤務などの違いにより、それぞれに共通に適用される基準を設定し、基本給に差を設けている。 無期雇用フルタイム労働者が、有期雇用労働者に比べ多くの職業経験を有することを理由として多額の支給をしているが、この職業経験は現在の業務と関連がない。
賞与 無期雇用フルタイム労働者にはサービス品質の目標値に対する責任、目標未達の場合の処遇上のペナルティを課せられており、有期雇用労働者においてはこの限りではない場合に、これに関する見合いの範囲内で、後者には賞与を支給しない。 無期雇用フルタイム労働者には職務内容や貢献等にかかわらず全員に支給しているが、有期雇用労働者及びパートタイム労働者には支給していない。

(厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン案(H28.12.20)より作成)

●柔軟な働き方の普及

 柔軟な働き方ができるよう、政府は以下の普及を推進していく方針です。

1.会社員の副業・兼業
 日本では会社員の副業・兼業を就業規則で禁止・制限する企業が多くあり、会社に勤めながらの起業や、優秀な人材が複数の企業で活躍する機会が制限されている現状があります。今後定める指針において、企業に対して副業・兼業に対する意識改革を促すことで、経済の活性化に繋げることを目指しています。
 一方で、これを認めることにより「結果的に長時間労働を助長することになるのでは」などの懸念の声もあがっています。

2.IT等を活用したテレワーク
 労働者が場所や時間にとらわれずに、パソコンやスマートフォンなどのIT等を活用して自宅等で仕事をする「テレワーク」の普及が検討されています。総務省の調べではテレワークを導入している日本企業は16%程度に留まり、インターネット環境が整備された現代社会において、導入により家庭で育児・介護をしながらの勤務や、連日の通勤ストレスの軽減などが期待されています。

今後の動向に注目しましょう

 今回ご紹介した内容については、この3月以降具体的な法制度等の改正・見直しが進められていくこととなります。クリニックにおいては、単に就業規則等の諸規程を見直すだけでなく、非正規労働者の雇用条件の見直し、就業時間・勤務シフトの見直し、場合によっては診療時間の見直しなどが起こりうるかもしれません。どのように決着していくのかとても興味深いところです。