放置しておくと経営にも影響が・・・

 早急に人材を確保したいと焦りが生じた際に、面接の手続きに不備があったり心的配慮を欠いた結果、採用の有無にかかわらず、さまざまなトラブルやクレームが生じてしまったという声をききます。そうした状況を放置しておくと、働く人を確保することが難しくなるだけでなく、クリニックの社会的信頼が低下することにもつながりかねません。

 採用面接時の基本的な知識を確認するとともに、トラブルやクレームが生じた場合、どのように対応すべきかを考えてみましょう。

うっかりミスでは済まされないことも

 「とても良い人だったので残念でなりません」

 そう話しているのは、歯科クリニックを経営するA先生。退職希望者が出たため、求人を出すよう事務職員に伝えました。しかし、なかなか希望者が現れません。

 退職予定日1カ月を切ったところでやっと就職を希望する人が現れ、面接を実施しました。人柄もとても良い人だったので採用を前提に労働条件などを話し始めたところ、「求人票と条件が違う」と急に怪訝そうな表情になり、「やはり辞退します」と言って帰ってしまいました。後で事務職員に確認したところ、どうやら以前募集した際の採用条件のまま求人票を出してしまっていたことが分かったということです。

 ハローワークにおける労働者からのクレームでも、「求人票の内容が実際と異なる」という申出は常に高い割合を占めています。この事例のように、採用前に分かればまだ対応ができますが、採用後となると、金銭的にも時間的にも負担がかかってしまいます。

 もう一つの事例をご紹介します。

 B内科クリニックでは、事務員を採用しようと面接を行いました。趣味を聞いたところ「読書」と答えが返ってきました。本の種類によって人柄を伺えるかもと書籍名を聞きました。結局その方は不採用だったのですが、その後たまたま看護師にその話をしたところ、「先生、それは面接で聞いてはいけない事柄ですよ」と指摘されびっくりしてしまいました。

 面接での緊張を少しでも和らげてあげようという優しさからや、求職者から話を切り出してきたからといって、つい本人の能力や資質に直接関係のない事柄を尋ねてしまうことがあります。こうしたうっかりの積み重ねは、今日の情報化社会において、思わぬブランドイメージの低下を招いてしまうこともあるということを肝に銘じて、対応を考えていく必要があります。

法的ルールの確認としっかりとした準備を

 ご紹介したとおり、面接時におけるトラブルやクレームを防ぐためには、面接のきっかけとなる求人票などの情報を正確に、かつ分かりやすく明示することが重要になってきます。また、面接時においては、「基本的人権」を侵害しないといった意識を持ち、ルールを守った質問や対応をしていくことが求められます。

 採用時の人間関係は、就職後もメンタル面での支えになるだけなく、モチベーションを高めるきっかけともなります。良い出会いをつくるためにも、今一度、採用や面接について考えてみてはいかがでしょうか。