はじめに

 2018年の診療報酬・介護報酬の同時改定に向け各所で議論が交わされています。財務省は10月25日に開かれた財政制度等審議会において診療報酬のマイナス改定を目指す方針を発表、また介護報酬に関してはマイナス改定に加え訪問・通所サービスの回数上限や総量規制などを要求する方針を打ち出しており、ともに前回以上に踏み込んだ改定が予測されます。今後、来年1月以降にそれぞれ具体的な点数設定やパブリックコメントの実施などを経て、2月ないし3月には改定案が確定することとなります。6年ぶりの同時改定を間近に控え、現在議論されている改定のポイントを整理するとともに、クリニックにおいて今から準備すべきこと、今後クリニックの医師に求められる役割などについて解説します。

報酬改定の見通し(診療報酬)

 社会保障審議会医療保険部会では、これまでの改定の視点(図表1)をベースとしつつ、次期改定の基本的視点として、以下の4点をあげています。

  1. 地域包括ケアシステムの推進と医療機能の分化・強化、連携の推進

  2. 新しいニーズにも対応できる安心・安全で質の高い医療の実現・充実

  3. 医療従事者の負担軽減、働き方改革の推進

  4. 効率化・適正化を通じた制度の安定性・持続可能性の向上

     

 まず、地域包括ケアシステムの推進については、前回、前々回の改定時から引き続き重点課題としてあげられています。具体的な方向性としては、医科歯科連携、病診薬連携、栄養指導、医療介護の適切な役割分担、かかりつけ医等の機能、外来医療の機能分化などが挙げられており、これらが点数にどのように反映されてくるかがポイントと言えます。

 つぎに、質の高い医療の実現に関しては、がん医療、認知症・難病患者等に対する医療、遠隔診療を含むICT等の技術の活用、アウトカム評価の導入などが重点推進項目として挙げられています。より重点的な対応が求められる専門医療分野に対する評価に加え、新たな技術の活用やアウトカム指標など、質の高い医療・リハビリテーションに着目した評価が挙げられています。

 続いて、医療従事者の負担軽減と働き方についてです。働き方改革の動向については、以前にも本誌でご紹介しましたが、長時間労働の是正、正規・非正規間の同一処遇の実現など、全産業における課題として法制度の見直しが進んでいます。とりわけ、医療・介護業界においては、賃金と業務量・勤務時間に関する問題の解消が不可避であり、配置基準の緩和、ICTの有効活用、業務効率化などがキーワードとなりそうです。

 前回の改定においては本体が+0.49%、薬価-1.22%、材料価格改定-0.11%となりましたが、今回は薬価に加え本体部分への影響も考えられ、これまで以上に厳しいものとなりそうです。

報酬改定の見通し(介護報酬)

 介護報酬も診療報酬と同じ方向性と考えられます。10月27日の介護給付費分科会では、以下の4点が掲げられています。

  1. 地域包括ケアシステムの推進

  2. 自立支援・重度化防止に資する質の高い介護サービスの実現

  3. 多様な人材の確保と生産性の向上

  4. 介護サービスの適正化・重点化を通じた制度の安定性・持続可能性の確保

 地域包括ケアに関しては、医療と同様に、在宅サービスの要として、関係機関との連携が不可欠になります。

 次に、自立支援の促進に向けて、介護においても、要介護者の自立度の回復を評価する方針が打ち出されています。これを具体的に推進するためには、自施設の介護における取り組みだけでなく、医療機関等との連携が不可欠となるでしょう。

 人材の確保に関しては、介護従事者の処遇改善のための人事制度の整備、働き方改革への対応、ICTの活用等による業務効率化の推進がポイントとなります。加えて、外国人人材の活用や介護系資格の統合化などがどの程度実現されていくか注目されます。

 前回の介護報酬改定は-2.27%でしたが、このうち全サービスの基本報酬は-4.48%、中重度・認知症患者等への介護サービスの充実に対する拡充分が+0.56%、介護職員の処遇改善分が+1.65%でした。前回の改定後、介護事業者の収支差率は、全サービスを平均すると、-0.5%ほど落ち込みましたが、中小企業の平均(約2.6%)と比べると、訪問介護やデイサービスなどは収益性が高くなっています(図表2)。介護職の離職が問題となっている現状を鑑みると、前回に準ずる形式での改定も考えられます。

今後の準備とクリニック医師に求められる役割

 それぞれの改定の方向性について確認しましたが「地域包括ケア」、「医療・介護のアウトカム評価」、「働き方改革への対応」、「業務効率化」などへの対応が求められていきます。自院における準備としては、外部との連携と内部の整備を並行して進める必要があります。まず地域における自院の立ち位置(ポジショニング)を改めて考え、地域から必要とされる機能・役割を俯瞰的に捉える必要があるでしょう。その上で、内部の人事管理・業務効率化に着手することが求められます。

 また、クリニック医師は地域医療介護の要として、他の医療機関や介護施設などとの連携が今まで以上に期待されるところでしょう。例えば、介護施設においては看取り対応・認知症ケアなどが重点取組み施策となっており、今後、連携・協力を求められるでしょう。また、働き方改革の一環ではじまったストレスチェックやメンタルヘルス対応、産業医機能などは、業種を問わず、その必要性が高まっています。地域の企業・教育機関からの要請なども十分考えられます。

今後の動向に注目しましょう

 第4次安倍内閣の発足を経て、今回の改定は社会保障施策の推進を考える上で重要な意味合いを持つことは言うまでもありません。今回ご紹介した同時改定に加え、2018年からは第7次医療計画・介護保険事業計画が施行されます(図表3)。働き方改革や待機児童施策、障害福祉サービスの報酬改定など関連分野の動向も目まぐるしいなか、どのように着地するのか注目が集まります。