やむを得ない事情で辞めた職員を再雇用する

 専門性が高く人柄も良い職員なのに、育児や家庭の事情で退職してしまう。少数精鋭で運営しているクリニックにとって大変な損失です。このようなことは、女性職員の多いクリニックでは特に起こり得ることですが、人材不足・採用難の現在では、職員の補充に苦戦し、結果的に職場環境や人間関係の悪化からサービスの質が低下し、経営難に陥るケースが見られるようになっています。

 採用トレンドの1つである、「アルムナイ採用(制度)」を通じ、優秀な職員を再び職場に呼び戻すための取り組みや、「もう一度働きたい」と思ってもらえるような職場環境づくりについて考えてみましょう。

アルムナイ採用とは

 「アルムナイ」とは、英語ではalumniと表記し、もとは学校の卒業生や同窓生を意味する言葉です。最近では、“(施設を)退職したOB・OG”を意味するキーワードとして人事・採用の分野で注目が集まっています。「アルムナイ採用」とは、結婚・出産・育児・介護等、何らかの理由で退職した(定年退職を除く)職員、すなわち“OB・OGの採用(再雇用)”を意味します。

職員への配慮が働きやすい環境をつくる

 クリニックでの就業5年目のAさんは、職場のムードメーカであり、「Aさんに任せておけば安心」と職場の信頼も厚い看護職員です。しかし、Aさんは親の介護を理由に退職することに。「何かあればいつでも相談してきてね」とお母さん的存在であった師長に声を掛けられ、就業最終日には院長から労いや感謝の言葉とともに、花束を渡され、Aさんは深々とお辞儀しクリニックを去りました。・・・数年後、郷里から再び戻ったAさんは「もし席が空いていたらまた働かせてください」とクリニックを訪ねてきました。対応した師長は、驚きとともに喜んでその場で採用を決めたそうです。Aさんは、以前にも増して意欲的に働いてくれています。

 ご覧のとおり、Aさんがまた同じ職場で働きたいと思ったのは、そこが“安心して働け”、“働きがいがあり”、“温かい”職場だったからに他ありません。日頃からの職員への気配りや接し方は少人数で距離感の近いクリニックこそ重視されるべき、職場環境づくりの一歩と言えるのではないでしょうか。

OB・OGの採用が施設を活性化する

 OB・OGの採用は、単なる採用の一手法ではなく、多くのメリットがあります(表1)。上記Aさんの例のように、OB・OGからの連絡を待つのではなく、施設側から積極的に働きかけることも重要です。

 職員が退職するのには、何らかの理由があります。女性の場合は特にAさんのような、ライフイベントに伴う退職が多いのが現状です。辞めずにいられるような福利厚生・制度づくりも勿論必要ですが、万一やむを得ず辞めてしまう職員が、「また戻って働きたい」と思えるような環境づくり、戻りやすい仕組みづくりがこれから求められています。

 OB・OGが戻ってくる職場は、職場の満足度が高く、職員が活き活きと働ける環境が整っていることは想像に難くありません。こうした職場は自然と施設に対する帰属意識が醸成され、サービスの質向上に繋がる好循環が生まれています。“職員サービス”の一環としてOB・OG採用を検討してみてはいかがでしょうか。