Q:職員が、院内で不正が行われているとマスコミに通報をしたことを知りました。どのような対応をしたらよいのでしょうか。

A:

 バブル崩壊後の1990年代後半から、企業等の国民生活の安全・安心を損なうような不祥事が相次いで明らかになりました。その多くは事業者内部の関係者等からの通報がきっかけとなっていたことから、事業者のコンプライアンス経営の促進と国民の生命や身体の保護、消費者利益の擁護のほか、労働者が不当な取り扱いを受けることがないよう「公益通報者保護法」が制定され、2006年4月から施行されています。

 この法律では、労働者が事業者を脅かすなどの不正な目的ではなく、事業者(派遣先や取引先を含む)の法令違反や不正などを通報する「公益通報」を行った場合、解雇や解雇以外の不利益な取り扱い(降格、減給、訓告、自宅待機命令、給与上の差別、退職の強要、専ら雑務に従事させる、退職金の減額、通報後退職した場合の退職金の没収)を禁じています。派遣労働者が派遣先の法令違反を通報した場合においても、契約の解除や労働者の交代を行う等の行為を禁止しています。

 保護の要件については、誰に公益通報したかによって区別されています。

①事業者内部(勤務先):通報の対象となる事実が生じた場合、またはまさに生じようとしていると思料する場合

②行政機関への公益通報:通報の対象となる事実が生じた場合、またはまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合

③事業者外部(マスコミなど)への公益通報:上記②の場合に加え、事業者内部(勤務先)や行政機関に通報すると、不利益な取り扱いを受けると信じるに足りる相当の理由があることや、証拠が隠滅、変造される恐れがある、個人の生命・身体への危害が発生する、あるいは発生する危害が急迫した危険がある等の場合

 上記に当てはまらない場合であっても、これまでの判例等から保護要件に該当することもありますが、重要なのは、通報内容が事実かどうかという部分です。内容によっては一見何の問題もないように思われる事柄であっても、よくよく調べてみたら法令に違反していたということもあります。

 初動においては、関連情報の収集や他職員への聞き取りのほか、必要に応じ通報者本人から情報を得て、徹底した調査を行う必要があります。その結果、事実でなかった場合は、作為的に通報したのか否かによって通報者に対する対応が変わってきます。顧問弁護士や社会保険労務士等の専門家に相談しながら適切な対応をとっていきましょう。

 なお、消費者庁からは、事業者のコンプライアンス経営の一層の取り組み強化と、通報を事業者内において適切に取り扱うための指針として、「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」(2016年12月)が公表されています。

 通報者の取り扱いはもとより、内部通報制度の実効性の向上に向けた諸制度の整備について、事業者の規模や業種の実情に応じた考え方が示されています。内部通報は、それが事実かどうかは関係なく、一度起これば職場内の人間関係に大きく影響しますし、クリニックの名誉や信頼を損ねるなど大きな損失につながるということを念頭に置き、対策を講じていきましょう。