クリニックにおける承継問題

 「クリニックの将来を誰にどのように引き継いでいくか」。今後、世代交代の時期を迎える「経営者」にとって、事業承継はもっとも重要な検討事項と言えます。地域医療を担うクリニックの事業承継は、一般企業とは異なる難しさや苦労がある点は言うまでもありません。子息へバトンタッチするケース、それが叶わず第三者への承継・M&Aを行うケース、医療法人による事業譲渡(吸収分割・新設分割)など、それぞれのケースにより留意すべきポイントが異なります。今号から全6回シリーズにて、クリニック承継のポイントについて解説していきます。

ハードルが高いクリニック承継

 1985年の医療法改正における「基準病床数制度」の導入により病床の増床が制限されるなか、診療所の開設件数は増加傾向にあります。厚生労働省医療施設動態調査によると、2017年10月末時点における一般診療所の総数は101,969件と、前年同月より385件増加しており、ここ5年間においては平均約400件程度の増加となっています(図表1)。承継による開業がどの程度であるかは定かではありませんが、諸々のハードルを考慮すると決して多いものではないでしょう。

 クリニック承継が一般企業に比べてハードルが高い理由としては、主に以下の理由が考えられます。

 ○子息への承継の場合

  ・医師・歯科医師資格の有無

  ・親子間の意志の相違(親の医院を引き継ぐこと・引き継がせることへの抵抗)

 ○第三者承継・M&Aの場合

  ・買い手探しの困難性

  ・条件(譲渡価格等)設定の困難性

  ・仲介専門業者の不在

 ○医療法人の場合

  ・条件(法人譲渡の対価等)設定の困難性

  ・手続きにかかる行政との連携上の問題

  この他にも「地域において現院長のブランドイメージが強い」、「譲渡の動き・噂が患者や地域に広がると経営打撃になる」、「院長が基本方針を定めないまま体調不良に陥るケース」などが考えられ、このような困難性があるだけに、院長が健康であるうちに計画的に将来のビジョンを検討する必要があります。

承継のビジョンを描く

 具体的なスキームや留意点については次号以降に各ケースに応じて解説をしていきますが、まずは共通事項として以下を検討することからはじまります。

  ①方針を決める

  ②リタイヤする時期を考える

  ③その後のクリニックをどうしたいかを考える

 方針の決定を将来に引き延ばすことは、体調悪化や判断力低下のリスクがあるだけでなく、仮に子息や親類者にバトンタッチするケースでは、その方々のライフビジョンに予期せぬ影響を与えることとなります。健康であるうちから、概ねの方針、リタイヤをする時期、その後、自院を地域に残したいのか、ご自身の代で閉院するのか、等についてビジョンを描く必要があるでしょう。当初(例えば5~6年前)は引き継ぐ意思を相互にもっていたとしても、時が経ち状況が変われば考えが変わることも多いに考えられますので、柔軟な見直しも必要です。

 それぞれのケースにおけるメリットやデメリットを踏まえながら方針を定め、計画的に準備を進めていきましょう。