医療機関に対する法令遵守が一層求められている

 企業経営におけるコンプライアンスの重要性については言うまでもありません。特に、公益的な事業活動を行う医療機関や介護事業者に対しては、世間の目は一層厳しいと言えます。昨年の医療法改正においても「医療法人の経営における透明性の確保やガバナンスの強化」が謳われ、「一定要件下における公認会計士等による外部監査」などが義務付けられています。
 外部の専門家等による監査や検査は非常に有効ですが、自主的に関係法令に関する理解を深め、定期的な診断をしていくこと、さらには、コンプライアンスの重要性を意識させることができる職場風土を醸成していくことが最も重要で効果的と言えます。

院内でコンプラ委員会を創設

 都内のある診療所では、3年前から医事・看護助手を中心に「コンプラ委員会」を設け、チェックシートに基づき自主点検を行っています。
 自主点検を行う際、特に重視しているのは「チェックシートの項目が最新の法令等に準拠しているか」という点です。チェック分野は「メディカル」「会計」「労務」「情報管理」「レセプト処理」などに大別されており、例えば労務については社労士、会計については税理士、など業務委託契約を締結している専門家などに毎回確認するようにしています。
 実施当初は年1回、現在は年2回の自主点検を行っています。この診療所では、コンプラ委員会以外にも感染防止委員会や災害対策委員会など、5つの委員会を運営しており、役回りは一定期間でローテーションしています。これにより、多くのスタッフが関係法令に対する基礎的な知識を勉強する機会をもち、コンプライアンスの重要性を共有することができます。
 点検結果は点数化し経年で比較することで、前回からの改善状況などを検証するようにしています。

 医療サービスに関することはもちろんのこと、労務や個人情報保護など、関係法令の領域は多岐にわたります。分野によってはインターネットなどで参考になる書式も入手できますが、「チェックシートの内容の精査」は必要です。
 まずは対応できる部分から、取り組まれてみてはいかがでしょうか。

コンプラチェックシート(一部抜粋:「メディカル分野」)
項目着眼点
必要数 常勤医師が3人以上いる場合、専属(常勤)の薬剤師を置いていますか。
療養病床を有する場合、必要数以上の看護師等を置いていますか。
  • 療養病床の入院患者数(1日当たりの平均)が2人またはその端数を増やすごとに、看護師・准看護師・看護助手者のいずれかを1人置くこと。
    そのうち1人以上は看護師または准看護師とすること。
雇用・勤務状況 従事者の資格を、免許書等により確認していますか。
出勤簿、タイムカード等により、勤怠管理を適切に実施していますか。
従事者に対して、雇用条件を書面により明示し、交付していますか。
職員の健康管理 従業者を雇い入れる際は、雇入の直前または直後に健康診断を実施していますか。
従業者に対し、1年以内ごとに1回、定期に健康診断を実施していますか。
夜勤従業者、放射線関係従事者に対する健康診断は、6か月以内ごとに1回、定期に実施していますか。
放射線関係従事者に対し、6か月以内ごとに1回、定期に、電離放射線障害防止規則第56条に基づく健康診断(被ばく歴の有無、白血球・赤血球数の検査等)を実施していますか。
(※上の項目(一般健康診断)とは別に実施が必要です。)
入院状況 入院患者を直ちに受け入れる体制にありますか(病室、ベッド等の状況は適切ですか。)。
定員を超えて入院させていませんか。
病室以外の場所に入院させていませんか。
感染症患者および保菌者は、他の患者とは別室に入院させていますか。
また、適切に消毒を行っていますか。
診療録 診療録に以下の内容を記入し、5年間保存していますか。
(※医師が複数いる場合は署名することが望ましい。)
□/診療を受けた者の住所、氏名、性別、年齢
□/病名及び主要症状
□/治療方法(処方及び処置)
□/診療の年月日
病棟諸設備の清潔保持 診療室 ベッド、マットレス等の寝具類や室内の清潔整頓を保っていますか。
処置室、手術室 医療用器具等が清潔を保つように十分手入れするとともに、室内の清潔整頓を保っていますか。
調剤所 採光・換気が十分であり、清潔を保っていますか。
損壊箇所 損壊箇所はありませんか(壁や床のはがれ、階段手すりの破損、雨漏り等)。
障害物の放置 非常口、防火扉、避難階段に障害物を放置していませんか(車いす、ストレッチャーが通行できますか。)。
手すり 患者の手すりの使用を妨げるような障害物を置いていませんか。
廃棄物等の放置 感染廃棄物、使用済リンネ等を、患者の目に付きやすい場所に放置していませんか。
夜間対応 入院患者がいる場合、夜間、医師が即座に対応できる体制が確立されていますか。
処方せん 医師は、処方せんに以下の内容を記入し、記名押印または署名していますか。
(※医師が調剤する(院内処方)場合、診療録の記録をもって処方せんとできます。)
□/患者の氏名、年齢
□/薬名
□/分量
□/用法、用量
□/発行年月日
□/使用期間
□/診療所の名称、所在地
薬剤師が調剤する場合、薬剤師は、処方せんに調剤済みの旨および調剤年月日を記入し、記名押印または署名していますか。また、処方せんの疑問点を医師に確認した後に調剤していますか。
毒劇薬の管理 毒薬・劇薬は、他の医薬品と区別して保管していますか。
毒薬の保管場所は施錠していますか。
麻薬の管理 麻薬以外の医薬品と一緒に保管していませんか(向精神薬も不可)。
容易に移動できない堅固な設備(壁や床に固定された金庫等)に施錠保管していますか。
麻薬と一緒に、現金および書類等(麻薬帳簿を含む)を保管していませんか。
麻薬帳簿を備え、2年間保存していますか。