認知症患者への対応力の強化、多職種間での連携

 いま、認知症患者への対応は医療介護業界の共通課題です。国内の認知症患者は増加し続け、65歳以上の高齢者の約半数がなんらかの自覚症状を有していると言われています。ここ数年、慢性期医療現場や重度要介護者が多い特別養護老人ホーム等の介護現場をはじめ、地域における認知症患者への医療介護体制の在り方に変容が見られます。これまで、専門的資格等の創設、専門的サービス種別(認知症対応型グループホーム、認知症対応型デイサービス等)の新設等により、分野別に機能の拡充が図られてきました。昨今では、これらの取り組みに加え、直近の報酬改定にも見られるように、かかりつけ医をはじめとする医療介護従事者の専門性の向上が期待されています。加えて、地域包括ケアシステムの実現に向けた多事業・多職種間での連携が求められ、医療・介護相互の専門知識や技能の共用が必要とされています。

 本号では認知症対応施策の動向および、その一環として行われている認知症サポート医制度の概要を解説するとともに、今後の医療介護現場で求められるクリニックの取り組みについて考えます。

直近の診療報酬改定の動向

 2018年度の診療報酬改定においては、主軸の3本柱として、1.かかりつけ医機能、2、機能分化の促進、3.アウトカム評価の促進、等が掲げられていますが、そのなかで、認知症対応への具体的な拡充策としては、以下2点が打ち出されています。

 

1.認知症療養指導料の「改定」

 認知症療養指導料は、従来の要件で算定可能なものを「1(350点)」とし、これに「2(300点)」・「3(300点)」が新設追加され3区分となりました(いずれも月1回、6ヵ月まで)。

 従来からの算定要件は、認知症患者に対して、かかりつけ医が認知症療養計画に基づく症状等の定期的な評価・療養指導を行うこととされており、これが「1」に該当します。

 また、かかりつけ医が「病状悪化・介護負担増等が生じた認知症患者」を認知症サポート医に紹介し、その助言のもと定期的な評価や療養指導を行った場合、算定可能となるのが「2」となります。

 さらに「はじめて認知症と診断された患者・病状悪化・介護負担増等が生じた認知症患者」に対し、「認知症患者に対する支援体制の確保に協力している認知症サポート医※1」が、かかりつけ医として定期的な評価や療養指導等を行った場合に算定可能となるのが「3」となります。

 

2.認知症サポート指導料の「新設」

 今回あらたに創設された認知症サポート指導料(450点、6ヵ月に1回)は、「認知症患者に対する支援体制の確保に協力している認知症サポート医」が他の医療機関からの求めに応じ、認知症を有する入院中以外の患者に対し、患者又はその家族等の同意を得て療養上の指導を行うとともに、当該医療機関に対し、療養方針に係る助言を行った場合に算定できるものとされています。

 認知症サポート医からの助言は文書を用い、患者及び保険医療機関に交付した文書の写しを診療録に添付することとし、認知症サポート指導料を算定した患者である旨を記載することとなります。(図表1)

 

※1 「認知症患者に対する支援体制の確保に協力している認知症サポート医」とは、以下アに加えイ・ウのいずれかを満たす医師を指します。

ア)「認知症サポート医養成研修」を修了

イ) 直近1年間に「認知症初期集中支援チーム」等の市区町村が実施する認知症施策への協力実績を有する

ウ) 直近1年間に都道府県医師会又は指定都市医師会を単位とした、かかりつけ医等を対象とした認知症対応力の向上を図るための研修の講師を務めた実績

認知症サポート医の役割

 政府が推進する認知症施策について、認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)では、2020年までの数値目標として、認知症サポート医の養成をはじめ、さまざま専門事業の拡充を目指しています。(図表2)

 認知症サポート医は、認知症患者が医療介護サービスをスムーズに受けられるよう、地域における連携機能をサポートする役割を担います。かかりつけ医への研修・助言等を行い、地域全体の認知症対応力の強化を図ることが期待されており、主な役割としては以下の3点が挙げられます。

 

  1. 都道府県・指定都市医師会を単位とした、かかりつけ医を対象とした認知症対応力の向上を図るための研修の企画立案

  2. かかりつけ医の認知症診断等に関する相談役・アドバイザー、他の認知症サポート医との連携体制の構築

  3. 各地域医師会と地域包括支援センターとの連携づくりの協力

      

 認知症サポート医の養成研修は2005年より開始され、2017年末時点での修了者は8,219名、診療科別の内訳では内科(約45%)、精神科(約20%)が占める割合が多く、次いで脳神経外科、神経内科、外科と続きます。

 政府は各地域の認知症の早期診断・対応を初期段階で集中的に支援する「認知症初期集中支援チーム※2」を全国に設置することを目標としており、ここでも認知症サポート医の配置が必須とされ、各地で増員を進めています。(図表3)

 

※2.「認知症初期集中支援チーム」は、認知症サポート医を中心に、認知症地域支援推進員(保健師・看護師等)や医療系・介護系職員等の各専門職により組織され、地域住民、専門機関、かかりつけ医・歯科医等からの初期相談(早期診断・対応)を行います。各地の地域包括支援センターや認知症疾患医療センターに設置されます。

看護師等の医療従事者に対する認知症ケアの普及について

 ある調査論文では「認知症患者への対応の仕方を学ぶ機会が少なく、看護スタッフが疲弊し、困難感・疲労感が蓄積される」現状が報告されています。認知症患者への意識改革の一環として研修会を継続的に実施することで、患者との意思疎通、周辺症状(不安・せん妄・徘徊等)の理解、総じて業務遂行上の課題やストレスの軽減が図られたとの事例もあります。現在、各関連団体による医療従事者向けの認知症をテーマとした研修会は比較的多く開催されています。これらの研修会への参加を促す、若しくは院長が参加した研修について勉強する機会を設ける等、院全体での対応を検討していくことが重要です。場合によっては、認知症への対応に関して比較的慣れている特別養護老人ホームや認知症対応型グループホーム等に勤務する介護士と連携して、勉強会を実施することも有効です。また、実践力を向上するためには、クリニック院長が嘱託医となっている介護施設に順次同行させてもらう、等の取り組みも有意義なものと言えるでしょう。

患者家族や地域住民に対するサポートの在り方

 認知症対応に不安を抱いているのは医療介護従事者だけに限らず、家族や地域住民はそれぞれの立場において問題を感じているでしょう。地域の医療機関(かかりつけ医)としては、これらの方々に対するサポートも重要な役割の一つです。認知症疾患医療センターでは地域住民に対する普及啓発活動も実施していますが、一部のクリニックにおいては「家族のつどい(認知症教室、予防教室)」を開催する、「お便り」を作成・配布する、等の取り組みも見られます。

 「認知症外来」・「物忘れ外来」・「家族外来」等認知症診療を専門とする医療機関は増えていますが、地域住民にとって通い慣れた地元のクリニックにおいて、安心できる対応づくりが求められます。