Q:昨今民法が大きく改正されると話題となっていますが、具体的なイメージが沸きません。クリニック経営者にどのような影響が考えられるのでしょうか?

A:

 2017年5月「民法の一部を改正する法律」が成立し、一部の分野を除いて2020年4月1日からの施行が決定しています。今改正は121年ぶりの大改正と言われており、時効、債権、契約、親族、相続など本法を構成する多くの分野が改正の対象となっています。今回はいわゆる「家族法」と言われる「親族・相続」分野における改正のポイントついて解説していきます。

 家族法の改正に関しては「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(2018年)」が2019年7月より施行されます。

●配偶者居住権

 改正の目玉として相続時における「配偶者居住権」が新設されました。これにより、遺族として残された配偶者の自宅居住権が保障されることとなります。例えば、被相続人の家族(法定相続人)に妻・息子・娘がおり、相続財産として現預金と不動産(自宅の土地・建物)がある場合、現行法では遺言の指定がある場合を除いて、妻1/2、息子1/4,娘1/4の法定相続分に従い分配されることとなります。現預金は按分しやすいですが、不動産(土地・建物)などは登記上の持分で按分することもあり、実態として誰かが居住し続けることが困難であったり、不動産を相続する代わりに現預金の按分を減らされる、などの問題があります。

 今回の改正では、①被相続人の配偶者は、②相続開始時に無償で住んでいた場合、③居住建物の帰属が確定するまでの間(最低6ヶ月間以上)は、居住し続ける権利が保障されることとなります(配偶者短期居住権)。また、被相続人が配偶者への居住権を認める旨を遺言等により指定する場合、その配偶者は終身又は一定期間、居住し続けることが可能となります(配偶者長期居住権)。自宅とクリニックを併用している場合、院長を被相続人、妻と子息(医師)を相続人と仮定すると、自宅部分の居住権は院長の配偶者が主張できるため、クリニックを引き継ぐ子息は、仮に母(院長の妻)と不仲であったとしても居住を認める必要があります。なお、ここでいう「居住権」とは所有権とは異なるため、財産分与は相続のルールに基づき行われます。

●生前、被相続人の介護・看護に寄与した親族の金銭請求権

 法定相続人(配偶者・子・親・兄弟姉妹)以外の親族(叔父叔母・従妹など)は、遺言の指定がない限り相続人とはなり得ませんが、生前において相続人の介護・看護に無償で貢献した者は、相続人に対して、その貢献に対する金銭を要求できることとなりました。これまでは法定相続人に寄与分(介護等を実施してきた者の財産の取り分が増える)が認められていましたが、今改正で相続人以外の者が無償で実質的に寄与分が認められるようになりました。

 医師が保有する財産は多種多様でありながらも一般的には高額であるケースが多いと考えられます。相続に関しては、これらの法制度を理解した上で、生前より被相続人との間で十分に話し合っておく必要があります。