はじめに

 2018年11月30日厚生労働省は、「アドバンス・ケア・プランニング(以下、ACP)」について「人生会議」という愛称で呼ぶことを決めたことを発表しました。このACPについては、定義がいまだに普及していないことに加え、医療機関によって取り組み状況にバラつきがあるのも事実です。

かかりつけ医としてのACPへの取り組み

 ACPとは、人生の最終段階においてどのような医療・介護を受けたいか、家族や医療従事者とともに話し合うプロセスを指します。医療機関(特に病院)におけるACPの一般的なプロセスのイメージは図表1のとおりです。

 ACPにおける話し合いについて、急性期病院等では在院日数も短く、患者・医療従事者双方にとって負担となってしまうため、患者と長い期間関わることができる医療機関が担う必要があります。かかりつけ医は、外来から在宅医療まで長期間にわたり患者と関わることができるため、このACPの取り組みを担う重要な役割を担っているといえます。家族には話しづらいことでも、かかりつけ医だからこそ聞き出すことができることもあるはずです。

 ACPにおいて適切な計画を立てるためには、患者が少しでも元気な時に、情報を収集することが重要です。高齢化の進展に伴い、高齢者の救急搬送割合が上昇傾向にあることは周知の事実ですが、その中には、本人の意思が共有できていないために、本人の望まない救急搬送が行われていることがあるという指摘もあります。この様なことが起きないためにも、外来の段階からACPの重要性を患者・家族に説明し、計画を立てることも重要な取り組みといえます。

 また、本人の価値観は日々変わるため、この話し合いは1度行って終わりではなく、誕生日やお正月など過去を振り返る機会を活用して、1年に1回を目安に行うことが望ましいとされています。話し合いのプロセスは、可能であれば書面やデータに残し管理をすることが重要です。

 かかりつけ医は地域の他の医療機関・介護施設、在宅ケアサービスと連携し、患者一人ひとりにあったサービスを考えます。ACPは計画を立てて自院で完結させるのではなく、地域の医療・介護関連施設と情報共有することで、どの段階であったとしても患者の意思を尊重した医療・介護サービスを提供できる体制を整備する必要があります。他の施設との懸け橋となるかかりつけ医が率先して、ACPを活用・共有していく意義は大きいです。

看取り体制への課題

 国は、ACPを通じて看取り体制の推進を図っています。この背景には、今後、日本全体が超多死社会へと移り行く中で人生の最期をどう迎えるか、地域社会全体でその体制を確保する狙いがあります。図表2は、人生の最期を迎えた場所の推移です。2015年(平成27年)では、病院・診療所を合わせた死亡者数は全体の約8割を占めています。死亡者数はピークの2040年まで増加することが見込まれており、現状の医療・介護提供体制では対応しきれないことが考えられます。医療機関での死亡割合が高い一方で、最期を迎えたい場所については自宅と回答した国民が54.6%と過半数を占めています(図表3)。これらの情報からも、今後は自宅での看取り体制のニーズに対応することが患者や家族から選ばれる医療機関となるための大きなテーマとなっていることが分かります。

診療報酬における看取りへの評価

 診療報酬改定においても看取りに関する評価が明確になっています。直近の2018年改定では①報酬引き上げや要件見直しによる担い手の拡充、②医療と介護の連携強化、③看取り期の医療・介護提供体制の質の向上を3つの目的として内容が見直されました。また、「国民の希望に応じた看取りの推進」が基本方針に初めて盛り込まれました。中でも、図表4のとおり、訪問診療料の加算である在宅ターミナルケア加算が一律500点引き上げられたことは、在宅医療の担い手の拡充を進めることになるでしょう。また、訪問看護についても、従来の基本料に相当する、訪問看護ターミナルケア療養費1が、5,000円引き上げられたことに加え、同療養費2が新設されました。機能強化型在宅支援診療所・病院、訪問看護ステーションにおいては、看取りに関する実績の要件が緩和されました。この様に、診療報酬上でも看取りの体制を充実させる方向性は明確で、ACPを含めた看取り体制を構築する意義は大きいといえます。

今後のACPへの取り組みの方向性

 近年、地域完結型の医療提供体制の整備が求められている一方で、体制が十分整備されていない地域が大多数を占めています。その中で、ACPは患者や家族の意思に基づく医療とケアの方針を地域の医療・介護施設と共有することで、地域完結型の医療提供体制の整備に大きく寄与し得る手法の一つと考えられます。ACPが地域を繋ぐ役割を担っているといっても過言ではなく、その原動力となるのはやはりかかりつけ医ではないでしょうか。患者から最も信頼され、近い立場であるかかりつけ医が旗振り役となってACPを推進させていく必要があるでしょう。