客観性・公平性が求められる賞与査定

 6月から7月にかけて賞与(ボーナス)を支給する事業所は多いのではないでしょうか。賞与は毎月定期的に支払われる給与と異なり、必ず支払わなければならないものではありません。しかし、賃金規程に「毎月●月に基本給の●ヶ月相当分を支払う」などと明記している場合、原則、規定どおりに支給しなければなりません。昨今では、対象期間における業績や各職員の貢献度を考慮し、必ずしも一律固定ではなく「個人査定」により決定するケースもみられます。ここでポイントとなるのが「誰がどの基準をもって査定をするのか」という点です。組織のトップ(院長、その他の管理職等)が独断で査定をすることは決して間違いではありませんが、評価が偏る、納得感が得られにくいなどのデメリットも考えられます。最終的な賞与額は経営者が決裁すべき事項ですが、そのプロセスには客観性や公平性を担保するための一定の仕組みを設けることも一考する余地があります。今回は、賞与査定の仕組みとして「人事考課」を取り入れているクリニックの「考課者研修」の実践事例をご紹介します。

人事考課のポイントは“正しい運用”

 ある医療法人のクリニックでは、グループ法人として社会福祉法人も運営しており、職員数は300人を超えます。当然、理事長(院長)はすべての職員の日々の業務を掌握しきれないため、賞与査定の時期(年2回)には人事考課を行っています。人事考課にはさまざまな形式があります(図表1)。こちらのグループでは情意考課と目標管理を組み合わせた方式を採用していますが、年に1回、必ず管理職を対象とした考課者研修を実施しています。

 人事考課制度を設けている組織であっても、職員(特に管理職)が制度自体を十分に理解していない、日々の業務で意識することがない、考課者によって評価の視点がバラバラ、評価の甘辛が出てしまう、などでは客観性や公平性は担保できません。制度を円滑に運用させるためには、継続的な研修等を通じて、制度そのものに対する理解を深めるとともに、評価の軸を共有することが重要になります。

原理原則だけでは対応しきれないケース

 医療や介護の仕事は評価が難しいといわれます。利潤を追い求めることだけが目的ではないため、数値的な評価が難しいのは事実です。そのため、人事考課において「なにを大切にするか(良い評価の対象となるか)」をよく考え設計する必要があります。そのうえで、一般的には5段階、4段階、3段階などの評点をつけますが、「どれだけの成果を出したら満点になるのか」など段階に対する評価の基準を合わせる必要があります。

 事例のグループにおける考課者研修では、「模擬事例」(人物事例・行動事例)を用いて、考課者同士でどのような評価をすべきか意見交換を行います。人事考課には原理原則があるため、模範解答は用意しますが、その基準を適用するかどうか、判断基準をすり合わせます。

 例えば、「業務時間外の行動は評価対象外」とするのが人事考課の原則ですが、当院では「出退勤時の身だしなみがあまりに派手もしくは清潔感がない場合はマイナス評価の対象」としています。これは「同僚や患者・近隣住民に対しては常に好感の持てる行動を心がけること」を行動規範の一つとしているからです。同様に「どれだけ丁寧で質の高い仕事であったとしても1日でも期日を遅れたら5段階評価では2点以下(3点が通常評価)」という基準も設定しています。「仕事の信頼は約束(期日など)を守ることから」という行動規範に準じた評価基準といえます。

考課者研修のメリット

 このように、あらかじめ組織の評価基準を共有しておくことで、ブレのない公平な評価を実現することができます。また、組織や院長の考え方を、評価を通じて現場に落とし込んでいく、育成的機能も期待できます。

 人が人を評価することは簡単ではありません。必要な訓練を通じて、評価の質を高めてみてはいかがでしょうか。