10月からはじまる新加算の概要

 2019年10月より介護人材のための新たな処遇改善として「介護職員等特定処遇改善加算」(以下、「特定加算」という。)が導入されます。運営の中核を担うベテラン介護職員の賃金改善を中心に、今回新たに看護師や作業療法士、介護支援専門員、管理栄養士など介護職員以外の職種も一定の要件のもと対象となります。クリニックなどの医療機関に在籍している介護職員・看護師等については、所属している事業所が介護保険事業者の指定を受けているか否かによって、本制度の対象になるか否かが判断されます。仮に本制度の対象外であったとしても、昨今の人材獲得競争を考慮すると、介護保険事業所に勤務する介護職・看護師等が、どの程度の賃金改善がなされていくのかは注視すべき事項と言えます。本号では、特定加算のポイントを整理するとともに、賃金改善の実施に際し、実務面で留意すべき事項について解説します。

新加算の特徴

 特定加算には以下の特徴があります。

  1. 現行の処遇改善加算とは別に取り扱う

  2. 経験・技能のある介護職員(介護福祉士で勤続10年以上)のうち、各事業所1人以上は月額8万円以上の賃金改善、又は年額440万円以上への賃金改善を実施

  3. 一定の要件下で、介護以外の職種に配分可能

  4. 介護福祉士の配置に係る加算の取得の有無により2段階の加算が設定

  5. 特定加算の取得状況を公表(見える化)

 特定加算は、現行の処遇改善加算(Ⅰ~Ⅲ)とは別に処遇改善加算計画を立案します。そのため、②で示す「月額8万円以上の賃金改善」などは、特定加算を財源に実施しなければなりません。当該計画年度が終了した際には、改善額の実績を報告することになりますが、これも従来の加算の実績報告とは別に行う必要があります。従来の加算では介護職員のみが対象で、かつ配分額に具体的な水準の縛りはありませんでしたが、特定加算では②③にあるような具体的な改善水準やその他の職種への配分も認められており、この点は大きな特徴と言えます。

 また、特定加算は2段階で設定されており、加算率が高い特定加算Ⅰの取得には「介護福祉士の配置に係る加算の取得」が求められます(詳細は後述参照)。さらに、どのような処遇改善策を講じているのか、ホームページ等を通じて外部に公表することも要件となっています(図表1)。

特定加算の取得要件

 特定加算を算定するためには、以下の要件を満たす必要があります。

  1. 現行の処遇改善加算(Ⅰ~Ⅲ)を取得している(その要件を満たしている)

  2. 職場環境等要件を満たしている

  3. 特定加算の取得状況を公表(見える化)している

  4. 介護福祉士の配置に係る加算を取得している(特定加算Ⅰの要件)

 従来、「いずれか1つ以上」の取り組みが求められていた「職場環境等要件」は、「いずれも1つ以上」実施することとなります(図表2)。「取得状況の見える化」要件は、ホームページによらずとも、事業所の掲示板等への掲示でも差し支えありません。加算取得の要件は、上記のとおりであり、決してハードルが高いものではありません。しかし、これにより得た加算収入分を「どの職種にどう配分するか」に様々な縛りがあり、この点が今回のポイントと言えます。

特定加算の対象事業と加算率

 特定加算を算定することができるのは、指定を受けた介護保険サービス事業者であり(一部除外対象あり)、介護職であっても病院、クリニック、サービス付き高齢者向け住宅などは対象外となります。対象となるサービスと加算率は図表3のとおりです。既述のとおり「介護福祉士の配置に係る加算」(サービス提供体制強化加算・特定事業所加算・日常生活継続支援加算など)の取得の有無によって、加算率が2段階に設定されています。例えば、地域密着型特別養護老人ホーム(定員29名以下)では、1ヶ月あたりの介護報酬単位数は「基本単価+各種加算」で概ね850,000単位程度になり、これに特定加算Ⅰ(2.7%)を乗じ、円に換算すると、1ヶ月あたり229,500円、年額で2,754,000円程度が特定加算分の収入となります。当然、この金額を上回る賃金改善を実施しなければなりません。

加算収入を配分するルール

 特定加算分の収入を配分するには、各々の現在の賃金水準を引き下げない前提において、最大3つのグループを設定し実施する必要があります(図表4)。

 

図表4

 

グループ 

 

要件 賃金改善額 
 a.  

 介護福祉士の資格を有し、勤続10年以上の介護職員を配置

 ※“勤続10年”は事業所で自由に設定可

 

  1人以上は、月額平均8万円以上、又は年額440万円以上への賃金改善
 b.

 

 a.グループ以外の介護職員

 

  改善平均額は、a.のそれの1/2以下
 c.

 

  a.b.グループ以外の他の職種(※対象範囲は自由に設定)

 

  改善平均額は、b.のそれの1/2以下

 (bの平均額を超えなければそれ以上でも可)

a.b.c.のグループは事業所毎に設定することができ、必ずしも3つにグルーピングする必要ありません。例えば、a.c.グループのみを設定する場合、賃金改善の平均額の割合はa:c=4:1にする必要があります。介護職員のみの処遇改善を念頭に、c.グループ(その他の職種)を設定しないケースも考えられます。また、a.グループを設定することで、事業所内で極端な賃金格差が生じてしまうといったやむを得ない事由がある場合は、a.グループを設定しない、ということも認められます。

分配のシミュレーション

 これらのルールに基づき、配分をシミュレーします。対象とする事業は、地域密着型の特別養護老人ホーム29床とします。特定加算はサービス種別、事業規模、現在の職員の賃金水準などによって、グルーピングや配分額が変わってくるため、事業ごとにシミュレーションを実施する必要があります。

 

【シミュレーション実施の手順】

  1. 特定加算分の収入額の試算

  2. グループの要件を設定し、a.b.グループの対象者を決定
  3. c.グループの対象者(職種)を設定
  4. それぞれの改善額を調整

<ポイント1> a.グループの要件設定

・既に年収440万円以上の介護福祉士がいる場合、 a.グループの要件を満たすため、改善額は月額 8万円以上とする必要はなくなる

・“経験年数10年”は自由に設定できるため、 対象者の人数によって、要件を緩和ないし厳 しくする

<ポイント2> c.グループの対象設定

・既に年収440万円以上のその他の職種の者は特定加算の対象外となる

・但し、c.グループの平均改善額を算定する際 の母数に組み入れることができる

<ポイント3> 改善額の調整

・改善額はグループ内で一律である必要はなく、 段階をつけることができる(各グループの改 善平均額が上位グループのそれの1/2以下で あればよい)

・例えば、人事考課の結果、キャリアパスの等 級区分、などにより段階を設ける

実務対応のポイント①【賃金改善の仕方】

 具体的な賃金改善の実施方法としては、①基本給(昇給・ベースアップ等)、②手当、③一時金(賞与等)、に充当することが考えられます。この他、退職金・資格取得費・研修費・福利厚生費などに充当することはできません。いずれの方法を取る場合においても、就業規則(給与規程)の見直しが必要となります。

 特定加算は、従来の加算同様、毎年度申請することになりますが、一定期間で職員の入れ替わりが発生した場合、年度によって配分方法(グルーピングや配分額)を見直さなければならないことが考えられます。このような状況下においても、仮に基本給を変更(減額)することは望ましくないため、いずれの項目で賃金改善を行うか、慎重な判断が求められます。

実務対応のポイント②【方針の設定と職員への説明】

 世間では「勤続10年以上の介護福祉士は月額8万円の給与アップ」という文言がクローズアップされていることもあり、一部の介護人材の期待値は高まっているのではないでしょうか。既述のとおり、配分は各事業所の方針と実情に合わせて検討されるため、職員とのミスマッチを起こさないためにもきちんとした説明が不可欠です。

 特定加算は10月からの開始に併せて、初月から取得する場合、8月末までに計画書を提出する必要があります。年度途中からでも行うことできるため、焦らずじっくりと検討し、労使間でちきんと協議した上で、申請する必要があります。