感情労働の現場におけるストレスマネジメント

 医療の現場では自身の感情をコントロールすることで患者や家族を適切に導くことが求められます。肉体労働・頭脳労働に対して「感情労働」と言われており、医療・介護・保育の仕事はその代表例と言えます。これらの業種はストレス要因も他業種に比べて多いと考えられます。職場内での人間関係などはどの業種でもストレス要因になり得ますが、患者や家族(サービスの受け手)からの要望や対応、専門職種間での意見の食い違い、業務時間や肉体的・精神的な負担、などは医療業界特有のストレス要因とも考えられます。いくら仕事とはいえ、このような環境下で自身のメンタルをコントロールし続けることは容易ではありません。医療現場におけるストレス管理は、サービス品質の向上とスタッフの就労継続の両面において重要なテーマと言えます。今回は、クリニックで定期的に実施している「アンガーマネジメント研修」の内容を一部ご紹介します。

アンガーマネジメントとは

 アンガーマネジメントとは「ストレス・怒りなどの感情を自身で適切にコントロールする」ことを言います。ストレスを抱えた状態で仕事をすることにより、不必要に声を荒げてしまったり、仕事が雑になってしまうことがあります。アンガーマネジメントは、まず自分の「怒りのタイプ」を把握することでどのような状況下で怒りが生じやすいか、そのような状況下で冷静になるにはどうすればよいか、をあらかじめ整理します。

 図表1は「怒りのタイプ」を診断する質問シートで、アンガーマネジメント研修では最初に自己診断を行います。自己診断では、それぞれの質問項目に点数をつけ、どの質問とどの質問の合計点数が一番高いか、によってタイプが分類されます。

アンガーログで分析する

 自身のタイプが分類できたら、次にアンガーログを書いてみましょう。アンガーログは、自身の怒りを文字で書き出すことで、その原因と回避策を客観的に分析する方法です。直近半年間程度のうちに、特に自分が怒ったことを書き出してみます。「なにが一番許せなかったのか」「どうすればその状況を回避できたのか」を振り返ることで、同様の事象の再発を予防します。例えば、「食事の席でアルコールが入った先輩から仕事のことについて説教された」、「後日、謝ってもらったが納得がいかず暫くイライラが収まらなかった」というようなケース。普段のコミュニケーションでは特に問題がないのであれば、その人がいる食事会(若しくは職場での食事会)には参加しない、という判断ができるかもしれません。

一呼吸いれる癖をつける

 仕事のなかで、瞬間的に感情が高ぶることは考えられます。その場で冷静になるためには、以下のようにする癖をつけるとよいと言われています。①6秒ルール(6秒間その場を離れる)、②目を閉じて深呼吸する、③水を飲む、④自分の目的を思い出す。冷静な判断ができない状況下で、相手との話し合いに応じたり、言い争い発展したりすることは、物事の解決を遅らせてしまいます。一呼吸入れることで、冷静な自分を取り戻し、職業人としてあるべき姿で臨むことが求められます。