
今回は、看護職員のメンタル不調の現状をご紹介しながら、医療現場で働く職員のメンタルヘルスケアを適切に進めていくための方法について解説します。
労働者派遣法で原則禁止されている「看護師派遣」について、2021年4月に法律が改正され、一部の派遣が例外的に認められるようになりました。新型コロナウィルス感染拡大による看護師需要の高まりや、多様化する看護師(潜在看護師を含む)のライフスタイルに対応することが目的とされています。
例外的に認められるようになった派遣の範囲は以下の2つです。
1.へき地の医療機関への看護師派遣
2.社会福祉施設等への看護師の「日雇派遣」
従来、医療機関への看護師の派遣は、「紹介予定派遣」や「産休・育休の代替」を除いて禁止されていました。これは医療機関が派遣労働者となる医療資格者を特定できないことにより、チーム医療に対する支障が生じるという懸念があるためです(医師については、地域によって確保が困難となっていることから、医師確保の選択肢の一つとして例外的に認められています)。
また、社会福祉施設等への看護師派遣は従来より認められていますが、派遣雇用契約期間が31日未満の、いわゆる「日雇派遣」については禁止されていました。
(図表1)法改正前後の看護師の可能範囲
〇が派遣可、×が派遣不可(※赤字は改正箇所)
派遣種別
施設種別 |
一般 |
へき地 |
日雇 |
紹介予定 ※1 |
産休等代替 ※2 |
||||||
改正前 |
改正後 |
改正前 |
改正後 |
改正前 |
改正後 |
改正前 |
改正後 |
改正前 |
改正後 |
||
医療機関 |
病院・診療所 |
× |
× |
× |
〇 |
× |
× |
〇 |
〇 |
〇 |
〇 |
介護老人保健施設 |
× |
× |
× |
〇 |
× |
× |
〇 |
〇 |
〇 |
〇 |
|
助産院 |
× |
× |
× |
〇 |
× |
× |
〇 |
〇 |
〇 |
〇 |
|
福祉施設等 |
高齢者施設 |
〇 |
〇 |
〇 |
〇 |
× |
〇 |
〇 |
〇 |
〇 |
〇 |
保育所 |
〇 |
〇 |
〇 |
〇 |
× |
〇 |
〇 |
〇 |
〇 |
〇 |
|
障害者施設 |
〇 |
〇 |
〇 |
〇 |
× |
〇 |
〇 |
〇 |
〇 |
〇 |
※1 3~6ヶ月後に正職員など直接雇用に切り替わることを前提とした派遣の場合
※2 産休・育休に入っている職員の代替要員として派遣される場合
へき地の医療機関への派遣のポイント
へき地(図表2)の医療機関へ看護師を派遣する場合、チーム医療への支障を回避する必要があります(図表3)。
(図表2)派遣が認められるへき地の範囲
以下のいずれかの地域を、その区域内に含む市町村 ・離島振興法の規定により離島振興対策実施地域として指定された「離島の区域」 ・奄美群島振興開発特別措置法に規定する「奄美群島の区域」 ・辺地に係る公共的施設の総合整備のための財政上の特別措置等に関する法律に規定する「辺地」 ・山村振興法の規定により指定された「振興山村の地域」 ・小笠原諸島振興開発特別措置法に規定する「小笠原諸島の地域」 ・過疎地域自立促進特別措置法に規定する「過疎地域」 ・沖縄振興特別措置法に規定する「離島の地域」 |
(図表3)へき地への派遣時に実施すべき事柄
実施者 |
実施すべき事柄 |
派遣元 (派遣会社) |
へき地において、対応すべき医療ニーズが広範にわたり得るという特性を鑑み、へき地の医療機関において業務を円滑に行うために必要な研修を受けた看護師等を派遣する |
派遣先 (医療機関) |
・派遣される看護師等が事前研修を受けているか、へき地医療支援機構等が発行する修了証明書により確認する ・へき地において業務が円滑に行われるよう、教育訓練の機会を確保する(努力義務) |
へき地医療支援機構 |
・事前研修のプログラムの作成、実施及び修了証明書を発行する |
社会福祉施設等への日雇派遣時の対応ポイント
社会福祉施設等における医療関連業務は、緊密な連携を必要とする高度なチーム医療は一般的に行われないことから、多様化する看護師(潜在看護師を含む)のライフスタイル等への対応を目的に、日雇派遣が認められることとなります。
多様化への対応という目的があるものの、日雇い派遣そのものが労働者の雇用が不安定になりやすい側面もあり、派遣元・派遣先の双方が適正な事業運営、雇用管理の実施を図る必要があります(図表4)。
(図表4)社会福祉施設等への派遣時に実施すべき事柄
(1)適切な事業運営の実施を図るための主な措置 |
|
実施者 |
実施すべき事柄 |
派遣元・ 派遣先双方 |
・労働者派遣契約において、派遣される看護師の業務を、基本的には利用者の日常的な健康管理(※1)とするとともに、必要に応じ、派遣される看護師に求める条件(※2)を定めること |
派遣元 |
・社会福祉施設等への看護業務を適切に遂行するための教育訓練を派遣就業前に実施すること ・派遣就業日の業務内容、緊急時の対応等をきめ細かに把握した上で、派遣労働者に対し、派遣就業前に説明すること |
派遣先 |
・派遣労働者に対し、具体的な業務内容、緊急時の対応等についてオリエンテーションを実施すること ・派遣就業開始前に、他のスタッフに対し、派遣労働者の業務内容等を説明し、連携を促すこと ・利用者に対し、派遣される看護師を含むサービス提供者の勤務の体制等について適切に説明を行うこと |
(2)適正な雇用管理の実施を図るための主な措置 |
|
実施者 |
実施すべき事柄 |
派遣元・ 派遣先双方 |
労働者派遣契約を締結する際には、損害賠償を含む責任の所在について明確にするよう努めること |
派遣元 |
労働者派遣法上求められている就業条件の明示を、派遣労働者に対し確実に行うこと |
派遣先 |
労働者派遣法上求められている責務(※3)を適切に果たすこと |
※1 単に日常的な健康管理と定めるだけでなく、バイタルチェック、口腔ケアなど、派遣就業日に求められる業務をできるだけ具体的に定めることとする
※2 例:派遣先の施設類型と同じ施設類型における勤務経験、当該業務内容を適切に遂行するために必要な研修の受講
※3 労働者派遣法に基づき、派遣先には労働時間管理、労災防止措置等の労働関係法令に基づく、事業主としての責務の一部が課せられている
日雇派遣が認められることにより、派遣先側からすると突発的な人手不足にも対応できるというメリットがある一方で、既存職員との連携や利用者への説明・調整などを丁寧に対応する必要があります。
また派遣労働者は、昨今話題となっている同一労働同一賃金の対象にもなります。
直接契約している正規看護師と比較して、均等・均衡待遇が実現できるかを検討しながら受け入れ条件を設定する必要があります。
働き方に関する法律が変わっていく中で、労働者側の“働き方”の選択肢が多様化しています。慢性的な人手不足に対応するためにも、柔軟な受け入れ体制を構築する必要があるのではないでしょうか。