2021年度の介護報酬改定では、さらなる自立支援・重度化防止に向け、「科学的介護情報システム(LIFE)」(以下、「LIFE」)を活用した取り組みの推進が盛り込まれています。これに伴い、LIFEの活用を算定要件に含む加算が新設されるなど、多くのサービスで横断的に加算の体系が見直されています。本システムの導入の背景を踏まえながら、活用による効果や加算要件取得にあたっての留意点、活用に向けた課題などについて解説します。

科学的介護の導入背景と経緯

介護保険制度の開始から20年が経過する中で、高齢者等の意向に沿った介護を行うことが重要視されてきましたが、昨今課題となっている要介護高齢者の重度化や自立支援への対応を効率的に進めていくためには、「客観的な証拠(データ)に基づいた介護」(科学的介護)を行うことも必要と考えられるようになりました。

科学的介護を推進していくため、厚生労働省では、2009年度から要介護認定情報の収集を始め、2012年度からは保険者(市区町村)から介護保険レセプト情報を収集し、介護保険総合データベースの作成に着手しました。

2017年度には、通所・訪問リハビリテーション事業所からリハビリ計画書等の情報を収集するためのシステム(VISIT)を、2020年度には高齢者の状態やケアの内容などの全265項目のデータを収集するためのシステム(CHASE)の整備、運用を進めてきたところです。

今回運用されることになったLIFEは、この二つのシステムを統合し一体的な運用を図るとともに、さらなるデータ収集を進め、フィードバックの活用による、PDCAサイクル・ケアの質の向上を図るとしています。

LIFEに関する加算の全体像

介護サービス提供者が、科学的に妥当性のある指標等に基づき、利用者一人ひとりの身体状況を評価し、サービス提供側が厚生労働省に提出したデータを蓄積のうえ、分析したフィードバックデータを活用します。

2021年度の介護報酬改定では、多くのサービスを対象に「科学的介護推進体制加算」が創設されました。これを基本としつつ、個別機能訓練加算、口腔衛生管理加算、栄養マネジメント加算などの従来の加算の算定に必要な各利用者の計画書やケア記録などにLIFEを活用することにより、より高い加算の取得が可能となっています(図表1)。

【主な加算項目】

(1)自立支援促進加算

廃用症候群や寝たきりを防ぐ取り組みみを評価した加算であり、医師が6ヶ月ごとの医学的評価の結果、特に自立支援のための対応が必要であるとされた場合に、支援計画を作成し適切なケアを行うことを評価したものです。

具体的には、座位保持の時間や個別な嗜好や生活習慣に応じた食事、入浴、排せつや過ごし方などについて3ヶ月ごとに医師、看護師、介護職員、介護支援専門員、その他の職種の者が共同して見直しながら計画的に支援します。介護施設における自立支援に関して医師の関与を強化した加算といえます。

 

(2)口腔衛生管理加算Ⅱ・口腔機能向上加算Ⅱ

従来の口腔衛生管理加算や口腔機能向上加算に加えてLIFEへデータを提出した場合に算定することができます。口腔衛生、摂食・嚥下機能に関して3ヶ月ごとに評価を行い、計画に基づき口腔管理を行い、口腔機能向上を図るものであり、評価結果を主治医や歯科医師への情報提供することが求められています。

LIFE関連加算として従来以上に注目される加算の一つで、主治医や歯科医師が評価結果とともにLIFEのフィードバックデータを受け取る機会が増えると予測されます。

 

(3)かかりつけ医連携薬剤調整加算・薬剤管理指導

介護老人保健施設では、入所後1ヶ月以内にかかりつけ医に状況に応じて処方の内容を変更する可能性について説明し同意を得るとともに、退所時または退所後1ヶ月以内に主治医に処方の内容に変更がある場合は、その経緯や変更後の状態について情報提供することが求められています。

処方変更の可能性に関して施設の医師(薬剤師)とかかりつけ医が同意・連携し、減薬に至った場合に上乗せされる加算となります。

LIFEの活用方法

先述の「科学的介護推進体制加算」とそれに加わる各加算を算定するためには、大きく以下の取り組みを行う必要があります。

  1. 対象となる利用者の基本情報等(加算種別によって範囲・内容が異なる)を毎月LIFEに送信する

  2. LIFEからのケアの実施・改善に関するフィードバックを活用する

 

介護報酬の算定については、毎月10日までに伝送システム等を用いて作成した「レセプト」を送信する仕組みですが、これと別にLIFEの公式サイトにおいて加算の算定に必要な事項を毎月10日までに入力することとなります。従来の請求業務に付加が加わる点は課題と言えますが、一方でフィードバックデータというかたちで日々のケアの成果が可視化されることで、介護業務に対する取組意識や介護の質の向上が期待されます。これまでケース記録などの定性的な記録がメインであった介護現場に定量的な記録が加わることで、より客観的にサービスの提供方針やケアの内容を検討・判断できると考えらえます。

フィードバックデータの活用について

LIFEに提出したデータは、翌月にフィードバックデータを受け取ることができます。フィードバックデータは、全国データと事業所データを比較した「事業所票」と利用者一人ひとりに対する「利用者票」の2種類とされています。このフィードバックデータは、サービス担当者会議やカンファレンスなどで、ケアプランやサービス別個別支援計画を見直す根拠として活用することが想定されています。介護事業所だけでなく、医師をはじめとした専門職が客観的なデータを共有することで、介護の向上を促進していくことが期待されています。

 

LIFEの導入は各事業所これまでの介護に対する考え方や取り組みを再確認するきっかけになると考えられます。一方で、客観的なエビデンスに基づく支援は、サービス内容が画一化され利用者が置き去りにされてしまう可能性もあります。

要介護者の生活の質を数字だけで客観的に推し量ることは難しいという側面があることを常に念頭に置きながら、介護にかかわる関係者のみならず医師や歯科医師、リハビリ専門職、管理栄養士、歯科衛生士等の多職種によるサービス内容の検証、サービス提供体制の見直しを柔軟に進めていくことが求められます。