
医療広告のルール・規制等については、厚生労働省の「医療広告ガイドライン」「医療機関のホームページガイドライン」等に沿った運用が求められています。
ウェブサイト等による情報提供も含め、医療広告に関する基本的な考え方が示されている一方で、規制対象・許容範囲などの具体的判断基準が明確ではなかったことから、令和3年6月に開催された「医療情報の提供内容等のあり方に関する検討会」において、「医療広告規制におけるウェブサイトの事例解説書(案)」(以下「解説書」)が提示されています。解説書に記載されている事例を用いながら、適切な広告に改善していくためのポイントについて解説します。
ウェブサイト等の広告規制違反状況
厚生労働省では、医療機関のウェブサイトの適正化に向けて、平成29年度より「医業等に係るウェブサイト調査・監視強化事業」を実施しています。この事業では、自治体の調査等から違反を発見するだけでなく、一般人が不適切なウェブサイトを通報する「医療機関ネットパトロール」が運用されています。令和2年度の通報受付は9,472サイトあり、うち1,796サイトが医療広告関係の違反の審査対象として報告されています(図表1)。
(図表1)通報受付状況(令和3年3月31日時点)
年度 |
通報受付件数 |
|||
医療広告関係 |
医療広告以外 |
|||
審査対象 (重複除外後件数) |
||||
平成29年度 | 1,612サイト | 864サイト | 569サイト | 748サイト |
平成30年度 | 8,358サイト | 6,726サイト | 1,525サイト | 1,632サイト |
令和元年度 | 10,300サイト | 7,987サイト | 1,044サイト | 2,313サイト |
令和2年度 | 9,472サイト | 7,906サイト | 1,796サイト | 1,566サイト |
出典:厚生労働省「第17回医療情報の提供内容等のあり方に関する検討会資料
資料1-2 ネットパトロール事業について(令和2年度)」
広告可能事項の限定解除要件
医療広告は、医療法に基づき広告が可能とされた事項以外は広告してはならないとされています。ただし、患者が自ら求めて入手する情報※1については、適切な情報提供が円滑に行われる必要があることから、この「限定」の解除が認められています(図表2)。広告で記載が制限されている事項についても、広告可能事項の限定解除要件を満たすことにより、ウェブサイト等では記載可能な範囲の幅が広がります(図表3)。
※1 看板やポスター等の広告媒体とは異なり、患者が知りたいことを自らウェブサイト等へアクセスし入手する情報
(図表2)広告可能事項の限定解除要件
広告可能事項の限定解除は、次の①から④のいずれも満たした場合認められる ① 医療に関する適切な選択に資する情報であって患者等が自ら求めて入手する情報を表示するウェブサイトその他これに準じる広告であること ②表示される情報の内容について、患者等が容易に照会ができるよう、問い合わせ先を記載することその他の方法により明示すること ③ 自由診療に係る通常必要とされる治療等の内容、費用等に関する事項について情報を提供すること ④ 自由診療に係る治療等に係る主なリスク、副作用等に関する事項について情報を提供すること ※③④は自由診療についての情報提供をする場合のみ |
出典:厚生労働省「医療広告ガイドライン」より作成
(図表3)限定解除を満たすことでウェブサイト等に記載できる内容
限定解除により記載可能 |
■専門外来の表記 例)「○○専門外来」「○○外来」の表記 |
■政令に定められていない診療科名 例)「膠原病科」「新生児科」「認知症科」 |
■「新聞や雑誌等で紹介された旨」 例)「2019年6月15日当院が雑誌△△に掲載されました」 「2020年5月20日にニュースで当院の院長○○が紹介されました!」 |
出典:厚生労働省「医療広告規制におけるウェブサイトの事例解説書(案)」より作成
不適切な広告事例と改善のポイント
解説書には、ウェブサイトに限らず広告規制により禁止されている事例が記載されています。今回はその中から、ウェブサイトに関する内容を中心に紹介します。
ページ下部の表をご覧ください。
広告可能事項の整理
上記「不適切な広告事例と改善のポイント」で紹介した中から「広告での記載が可能事項」と「限定解除を満たす場合にウェブサイト等への記載が可能な事項」は次のとおりです(図表4)。
(図表4)広告可能事項
掲載事項 |
広告 |
限定解除満たす場合 |
専門外来の表記 |
× |
〇 |
政令に定められた診療科名 |
〇 |
〇 |
政令に定められていない診療科名 |
× |
〇 |
新聞や雑誌で紹介された旨 |
× |
〇 |
体験談・口コミ |
× |
× |
手術件数(医療機関で実施された件数) |
〇 |
〇 |
手術件数(医師個人が実施した件数) |
× |
〇 |
ビフォーアフター写真のみ |
× |
× |
ビフォーアフター写真と症例写真ごとに説明あり |
× |
〇 |
厚生労働大臣が届け出を受理した専門性資格 |
〇 |
〇 |
厚生労働大臣が届け出を受理していない専門性資格 |
× |
〇 |
出典:厚生労働省「医療広告ガイドライン」「医療広告ガイドラインに関するQ&A」「医療広告規制におけるウェブサイトの事例解説書(案)」より作成
※1 表内で〇となっている部分についても、記載にあたり補足や注意点があるため、医療法や医療広告ガイドラインを確認した上で掲載をすること。
※2 限定解除を満たした内容をウェブサイト等で広告する場合は、広告可能事項の限定解除要件に関わる情報を十分に記載する必要がある。例えば、問い合わせ先(電話番号・メールアドレス等)の明示がなく、容易に照会できない状態では、限定解除の要件を満たさないため違反広告となる。
広告規制の事項が多く複雑なことから、広報活動が上手に運用できていない、あるいは広告規制の理解が十分でないために、知らず知らずのうちに違反広告を運用し続けてしまっているクリニックも見受けられます。しかし、クリニックを経営していく上では、新規患者の集客や地域からの理解や信頼を得ることが重要です。広告規制を正しく理解し、適切な広告かつ積極的な広報活動を進めていくことが必要ではないでしょうか。


