新型感染症への対応だけでなく、慢性的な人材不足の解消や働き方改革への対応に向けた職員の増員などにより、多くの医療機関が、経営の難しい舵取りを強いられています。
社会情勢の荒波を乗り越えていくためにも、サービスの提供や設備投資、イニシャルコストなどの状況をしっかりと把握するとともに、しかるべき対策を講じていくことが重要になってきます。
特に、数値的な側面での理解や判断においては、顧問契約を結ばれている会計事務所との連携が不可欠になってくる訳ですが、具体的にどのような事柄を求めればよいのか分からず、結局任せきりというところも少なくないのではないでしょうか。
会計事務所を上手に活用していくためのポイントについて解説します。

一般的な会計事務所の業務範囲

クリニックと会計事務所との業務範囲は契約によって決まりますが、その前提として会計事務所はどの範囲の業務まで依頼することができるのか確認が必要です。事務所の規模や関連企業の有無により異なりますが、クリニックなどの医療機関をクライアントに持つ事務所では一般的には以下のような業務範囲が想定されます。

 

(図表1)一般的な会計事務所の業務範囲

会計業務

税務相談

人事給与

コンサルティング

・  会計処理代行

・  決算書の作成

・  税務申告

・  事務員指導、など

・  節税対策

・  相続税対策、など

 

 

・  給与計算

・  社会保険手続き

・  年末調整

・  就業規則見直し、など

・  経営相談

・  増収増患支援

・  新規事業

・  事業承継、など

 

会計業務や税務相談はメインとなる業務範囲であるのに対し、人事給与に関する内容やコンサルティング業務などはいわゆる「オプション扱い」となるケースが多く、必要に応じて依頼(追加)する内容と考えられます。特にこれらのオプションサービスについては、会計担当者と別の担当者や部署(社会保険労務士や経営コンサルタントなど)が担当することもあるので、対応可能な事務所とそうでない場合があります。

会計事務所への依頼事項(要望)を洗い出してみる

業務範囲は定期的に見直すことも必要です。クリニックの経営環境は変化し続けていくため、自院の経営状況に見合った支援を依頼することが臨まれます。まずは、現状について次の点から整理してみましょう。

 ① どのような業務を依頼しているのか

 ② 業務の趣旨(院長の思い)は正しく伝わっているか

 ③ 訪問する担当者は誰か

 ④ 訪問頻度や時間帯は十分か

 ⑤ 自院を取り巻く状況に理解があるか

 ⑥ データについての説明は十分か

こうした点を表に書き出してみるとともに、各項目に対して過不足や不満がないかについて検討することで、補うべき点や削るべき点などの改善策(要望)が見えてくるはずです(図表2)。

経営指標から自院の立ち位置・経営課題等を説明してもらう

会計事務所に業務を依頼するということは、単に経理や税務処理の煩雑さを解消するだけでなく、会計事務所が持つ医療機関のさまざまな情報を活用して、経営を考えていくという点においても大きなメリットがあります。

医療機関に精通している会計事務所であれば、自院と同じくらいの規模や診療科目、同じ地域あるいは同等の人口規模の自治体で経営する医療機関の家賃や人件費、事業費、設備投資の状況、借入金利などの経営指標を持っています。こうした指標を活用して、他院の経営状況の把握や比較を行うことは、経営の安定性や永続性を考える意味でもとても有益です。例えば、収益性が芳しくない原因は、単に患者数が少ないためか、家賃や材料費が高すぎるのか、残業代を支払いすぎているのか、など客観的な考察を経て対策を検討することができます。

まずは、毎月の数字の変化に現れる自院の経営指標について、じっくりと説明を受ける機会を設けてみることをお勧めします。

気兼ねなく話せる関係性をつくる

医業にかかる支援策や補助金、税務上の対応などについてのアドバイスは必要不可欠ですが、患者が増加した際の対策や設備投資への備えなど経営に直結する相談はもとより、院長やその家族が所有する資産の管理や相続といった資産形成に関する相談など、院長の周辺にあるお金に関するさまざまな問題についても、気兼ねなく相談できる関係性をつくることが大切になってきます。

会計事務所の担当者が医業に精通していたとしても、実際の診療に立ち合ったり、患者の声を直接聞いていたりしているわけではありません。担当者が提供する情報や改善策は、数値上でみえている課題を解決していくための一般的な方策の一つでしかありません。

ましてや院長の周辺にあるお金の問題などは、担当者からはなかなか聞きづらい内容ですし、日ごろから院長の置かれている状況の全体像を把握していなければ、適切なアドバイスをすることは難しい内容です。

自院の経営の実態や院長が置かれている状況に即し、プラス・アルファのある情報や改善策を得るためにも、会計事務所の担当者が訪問する際は経理担当者に任せきりにするのではなく、院長自らが積極的に担当者に働きかけ、コミュニケーションを深めていくようにしましょう。

  

経理や税務対策は医療機関の経営に大きく関わる事柄であるだけに、会計事務所は付き合い方次第で、経営の強いパートナーとなり得ます。

激変する社会情勢を乗り切り、さらなる発展を目指すためにも、今一度付き合い方を見直されてみてはいかがでしょうか。