病院やクリニックなどを経営する医療法人は、医療法第52条の規定に則り、毎会計年度終了後三月以内に事業報告書・決算関係書類(以下、「事業報告書等」)を都道府県知事に届け出ることとされています(※1)。また、所轄庁である都道府県は、請求があった場合に管轄する医療法人のこれらの情報を閲覧に供することとされています。これらの届出・閲覧はいずれも「紙媒体」で行われており、医療法人と都道府県の双方に事務的な負担が生じているとともに、医療法人の経営実態を確認しづらい状況にあると言われてきました。
このような状況を踏まえ、「骨太の方針2021」において届出等の事務のデジタル化と運営の透明性を図る観点から、「⑴届出等のデジタル化」・「⑵届出データのデータベース化」・「⑶届出内容を公表する全国的な情報開示システムの構築」、が提言され令和4年度から「医療機関等情報支援システム(G-MIS)」を利用した電子媒体での届出が可能となっています。あらたに導入された仕組みの概要と活用方法などについて確認します。(ページ下部 〇事業報告書等の届出のイメージ 参照)
※1 この届出をせず、又は虚偽の届出をした時には、同法第93条により20万円以下の過料に処されることがあります。
届出・閲覧の対象となる事業報告書等の内容
医療法人が毎年度作成し届け出ることとされている書類は、以下のとおりとなります。これらの書類は会計帳簿の閉鎖の時から10年間は保存しなければならないとされており、紙媒体での管理・保存はペーパーレス化推進の妨げにもなると言われています。
今後は、これらの関係書類を各都道府県のホームページ上などで閲覧できる仕組みが整備されることとなります。
事業報告書 |
法人概要及び事業概要を示したもの |
財産目録 |
法人の資産・負債等の状況を記載したもの |
貸借対照表 |
法人の資産・負債・純資産を記載したもの |
損益計算書 |
事業年度における収支状況を記載したもの |
関係事業者との取引の状況に関する報告書 |
法人の役員又は近親者等との取引内容や取引額の大きい事業者との取引状況を記載したもの |
監事の監査報告書 |
法人の監事による監査結果の報告書 (※社会医療法人などについては公認会計士等による監査報告書) |
届出・閲覧のデジタル化のスケジュール
令和3年11月2日に開催された「第82回社会保障審議会医療部会」において、デジタル化に向けた以下のスケジュールが提示されました。令和4年6月末(令和3年4月から翌年3月末までの会計年度)の届出期限である事業報告書等から、医療機関等情報支援システム(G-MIS)へ電子媒体のアップロードによる届出が可能となっています。当面の間は、引き続き紙媒体による届出も可能とされていますが、デジタル化に完全移行することが前提となっているため、早い段階で切り替える必要があります。また、誰もがこれらの関係書類をオンライン上で閲覧できるようになるのは、令和5年度以降とされています。(ページ下部 スケジュール表 参照)
先行事例にみる活用方法
この仕組みに先行するかたちで、介護施設等を経営する「社会福祉法人」に関しては、2014年から「社会福祉法人の財務諸表等電子開示システム」により電子媒体による届出に完全移行しています。法人の決算・財務状況が過去の会計年度も含めて公開されているとともに、法人の概要(役員構成・職員数・事業内容・理事会等の開催状況など)を示した「現況報告書」についても毎年アップロードされており、誰もがオンライン上で閲覧することができます。(ページ下部 ホームページ抜粋資料 参照)
金融機関や取引先はもちろん、施設利用を検討している一般市民も公開されている財務状況などを確認することができます。当然のことながら、同業他社である社会福祉法人も閲覧することができるため、自法人の経営状況と比較検証する等にも活用されています。一般的に検証できる財務指標としては以下が考えられます。
事業(医業・介護)収入 |
収入(稼働)状況 |
人件費率 |
総額人件費の支出状況 |
事務事業費率 |
人件費以外の材料費・経費等の支出状況 |
純資産比率 |
法人の純資産の割合 |
収支差額率 |
当年度の収支差額率 |
デジタル化によるメリット・デメリット
デジタル化の移行に際して、「医療機関側」・「閲覧者側」のそれぞれのメリット・デメリットは以下が想定されます。
〇医療機関側
メリット |
デメリット |
・事業報告書等の届出事務が簡便となる ・ペーパーレス化を推進できる ・他院との比較による自院の分析ができる |
・自院の財務状況等を閲覧されやすくなる |
〇閲覧者側
メリット |
デメリット |
・全国どこからでも特定の法人の財務状況等を確認することができる |
・オンライン環境がないと閲覧できない |
自院の経営状況の検証に役立てることができます
医療機関の経営状況に関する調査としては、厚生労働省が2年ごとに実施している「医療経済実態調査」などがありますが、G-MISの導入により同一地域や同等規模の法人の情報をピンポイントで確認できるようになります。事業報告書等の届出の対象となっていない医療機関においても、自院の経営状況や立ち位置を確認する目的などで活用することも一案です。
現在、厚生労働省の専用ページにて、「G-MIS操作マニュアル」も公開されていますので、参考にいただければと思います。
厚生労働省:(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00130.html)