
2022年10月1日に介護報酬の一部が改定されました。介護報酬は通常3年ごと(4月)に改定されますが、今回は「介護職員等の処遇改善の拡充」を目的とした臨時改定となります。診療所などを運営する医療法人で附帯業務として訪問介護、通所リハビリテーション、デイサービスなどの介護保険サービスを実施している場合や、関連法人でこれらを運営している場合などが該当しますが、介護保険サービスを実施していなくても、近隣施設の介護職員や事務員などの給与改善により、自院のスタッフの採用面などに影響が及ぶことも想定されます。今号では、急ピッチで進められている介護現場の処遇改善について解説します。
新たに創設される「介護職員等ベースアップ等支援加算」
今回新たに創設される「介護職員等ベースアップ等支援加算」(以下、「ベア支援加算」)は、2022年2月から開始された「介護職員処遇改善支援補助金」(以下、「支援補助金」)を介護報酬に組み入れることで、恒久的に介護職員等の給与水準を引き上げるための「第3の処遇改善加算」です。支援補助金は2022年9月までの時限的な措置であるため、同10月以降は介護報酬に形を変えて、処遇改善策が継続することとなります。この加算による改善は、3%程度(月額平均9,000円相当)とされており、具体的な配分ルール等については表1のとおりです。
表1.ベア支援加算の概要
対象の介護保険サービスと加算額(・率) |
・対象サービスとサービス毎の加算率は表2のとおり ・配分の対象となる職員(・職種)は事業所が任意に設定できるため、必ず9,000円の賃金引上げになるというわけではない |
配分の対象職種 |
・介護職員及び当該事業所に勤務する職員(制限なし) |
加算取得の要件と配分ルール |
・現行の介護職員処遇改善加算(Ⅰ)~(Ⅲ)を算定していること ・加算額の2/3以上は職員のベースアップ(基本給又は決まって毎月支払われる手当)に充てること |
対象外の介護保険サービス |
・(介護予防)訪問看護 ・(介護予防)訪問リハビリテーション ・(介護予防)福祉用具貸与 ・特定(介護予防)福祉用具販売 ・(介護予防)居宅療養管理指導 ・居宅介護支援(居宅ケアマネ) ・介護予防支援(地域包括支援センター) |
表2.サービス種別ごとの加算率(ベア支援加算)
・訪問介護 ・夜間対応型訪問介護 ・定期巡回・随時対応型訪問介護看護 |
2.4% |
・(介護予防)訪問入浴介護 |
1.1% |
・通所介護 ・地域密着型通所介護 |
1.1% |
・(介護予防)通所リハビリテーション |
1.0% |
・(介護予防)特定施設入居者生活介護 ・地域密着型特定施設入居者生活介護 |
1.5% |
・(介護予防)小規模多機能型居宅介護 ・(介護予防)認知症対応型通所介護 |
2.3% |
・看護小規模多機能型居宅介護 |
1.7% |
・(介護予防)認知症対応型共同生活介護 |
2.3% |
・介護老人保健施設 ・地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護 ・(介護予防)短期入所生活介護 |
1.6% |
・介護老人保健施設 ・(介護予防)短期入所療養介護(老健) |
0.8% |
・介護療養型医療施設 ・(介護予防)短期入所療養介護(病院等) |
0.5% |
・介護医療院 ・(介護予防)短期入所療養介護(医療院) |
0.5% |
介護現場における処遇改善の仕組み
介護職員等の処遇改善を目的とした加算制度は、従来の①介護職員処遇改善加算、②介護職員等特定処遇改善加算、に新たに③ベア支援加算、が加わり「3階建て方式」になります(表3)。加算取得はあくまで任意ですが、②と③はそれぞれ①の取得が要件となっているため、算定パターンは表4の5パターンが考えられます。各パターンにおける職員一人あたりの月々の給与改善額の目安は表4のとおりとなります。
表4.処遇改善加算の算定パターンとパターン別給与改善額
A. ①②③ |
+66,000円 |
B. ①② |
+57,000円 |
C. ①③ |
+46,000円 |
D. ① |
+37,000円 |
E. 算定なし |
0円 |
(※給与改善額は目安)
ベア支援加算を算定する際の留意点
ベア支援加算の特徴は「2/3以上を月例給のベースアップに充当する」という点にあります。従来の加算は、年間の加算収入が確定した段階で、賞与や一時金などにより対象職員に配分するというケースが多くみられましたが、本加算ではそのような取り扱いは原則できなくなります(表5)。そのため「対象職員と非対象職員の月給格差」が生じる可能性があります。例えば、本加算は介護職員以外にも配分が可能ですが、診療所勤務の看護師や事務員などと、通所リハビリテーション勤務の看護師や事務員などがいた場合、後者をベア支援加算(又は介護職員等特定処遇改善加算)の配分対象とすると、同じ法人内の同一職種間で月給に差が生じます。この点に関して、「所属によって職務内容が異なる」ためこれを「妥当な格差」とするかどうかは判断が分かれることころです。一定の裁量が認められているため、自法人においてはどのような配分をすべきか、方針を立てる必要があります。
加算取得のための準備
ベア支援加算は、2022年10月のサービス提供分から算定することができ、そのためには同8月末までに自治体に「計画書」を提出している必要があります。11月以降に算定する場合においても、算定月の前々月末までに計画書を提出する必要があります。また併せて、以下の手続きを同時に進める必要があります。
- ●就業規則等の見直し(月々の基本給や手当の見直しについて)
- ●職員に対する説明と周知(算定要件の一つ)
- ●加算体制の変更届(自治体の所定様式にて報告)
- ●介護保険請求ソフトの設定変更(ベア支援加算の算定ができるよう設定変更)
- ●サービス利用者への周知・契約書等の見直し
特に「職員に対する説明」は、先述した配分の方針に基づき、対象となる職員以外にも説明し、理解を得ることが重要となります。
複雑になる制度をきちんと理解し、職員の処遇の向上に務めましょう
「ベア支援加算」と同様の加算制度は、介護現場以外でも同時に進行します。障害福祉サービス事業所を対象とした「福祉・介護職等ベースアップ等支援加算」、保育現場における「保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業」、診療報酬改定における「看護職員処遇改善評価料」など、医療福祉現場の処遇改善施策は急ピッチに進められています。制度が複雑化することで、給与等の管理負担が増えることを懸念し、加算取得を見送るケースも見られます。自院に所属する専門職が安心して働き続けられるよう、処遇の向上策を検討されてはいかがでしょうか。

