職員の採用過程において「リファレンスチェック」を行う企業が増えています。リファレンスチェックとは、採用候補者の現在又は以前の職場に、経歴や勤務状況などを問い合わせることで、採用可否や待遇を決定する際の判断材料の一つとして行われます。中途採用者が多い医療機関においても、主に採用トラブルや採用後のミスマッチを予防する目的で取り入れるケースが増えています。今号では、リファレンスチェックの実施方法について解説します。

今、リファレンスチェックが注目されている背景

今、リファレンスチェックが全産業的に注目されている背景としては、①中途採用比率の増加、②経歴詐称等の採用トラブルの増加、などが挙げられます。2021年4月より「労働施策総合推進法」の改正により、301人以上の労働者を雇用する企業は中途採用比率の公表が義務付けられています。公表義務化のねらいとしては、新卒者の一括採用が定着している大企業における中途採用の拡大・促進を図ることにあり、年功的な雇用が見直されている現代社会において、中途採用者が増加していることを裏付けています。厚生労働省の調査※1では、1年間における全国の入職者数は約760万人で、うち新卒者等の未就業入職者は35%(約270万人)、転職者は65%(約490万人)であり、転職者数は増加傾向にあります(2000年時点で約350万人)。

このような状況下において、さまざまな「採用トラブル」が問題となっています。求人票の記載不備や不当な内定取り消しなど事業者側に原因があるものに加え、経歴詐称や面接での虚偽発言など求職者側に過失がある場合もあり、求職・採用活動はいずれも慎重に進めなければなりません。特に医療機関においては、医師・看護師等の慢性的な人手不足から応募自体が減少している地域も見られ、いかにして採用面接(マッチング)の質を高めていくかが、重要となります。

 

※1_「中途採用に係る現状等について」(令和元年9月27日厚生労働省職業安定局)より引用

リファレンスチェックのメリットとデメリット

リファレンスチェックを行うことのメリット・デメリット(留意点)は下表のとおりです。導入事例が増えているとは言え、医療業界ではまだ一般的とまでは言えないため、採用候補者や問い合わせを受ける人事担当者は動揺してしまうかもしれません。実施にあたっては、適切な手順で進めていく必要があります。

 

 表1.リファレンスチェックのメリット・デメリット(留意点)

メリット

デメリット(留意点)

 ・  第三者による客観的な意見・情報を取得できる

 ・  採用トラブル・ミスマッチ・早期離職を予防できる

 ・  採用候補者が選考を辞退する可能性がある

 ・  最終選考までに時間を要する

 

リファレンスチェックの進め方・問い合わせの仕方

一般的には以下の手順で進めます。

 

【手順1】 採用候補者に対してリファレンスチェック実施の同意を得る

法的な拘束があるわけではありませんが、リファレンスチェックの実施にあたっては、採用候補者に事前に同意を得ることが望ましいとされます※2。採用候補者が拒む場合は無理に実施することはせず、その理由を追求することも控えた方が良いでしょう。この場合、経歴等に事実と異なる点があるか、前の職場との関係性が芳しくないことなどが考えられます。

【確認の仕方】

 〇〇さんの前の職場でのご活躍や在職期間などを確認するため、人事のご担当の方に問い合わせをしても差し支えありませんか

 

※2_情報を提供する側(以前の職場)は、採用候補者(=退職者)の情報提供には「事前に同意が必要」となるため、一般的は、リファレンスチェックを依頼する側の企業が採用候補者から同意を取り、同意書面を以前の職場に提示するというプロセスが取られます。

 

【手順2】 質問・確認項目をあらかじめ決める(絞る)

前の職場の方に根掘り葉掘り質問することは好ましくなく、質問・確認すべき事項はあらかじめ絞り、短時間で行うことを心がけます。基本的には、履歴書や経歴書、面接での本人の発言などの「事実確認」とし、それ以外のことを問い合わせることは控えます。

【質問・確認項目の一例】

 ・  在職期間

 ・  立場(役職)・業務範囲

 ・  勤怠状況・健康状態

 ・  退職事由(解雇や人員整理などであった場合)

 

【手順3】 リファレンスチェックの実施

前の職場に問い合わせを行います。「本人から承諾を得ていること」、「あくまで事実確認が目的であること」、「答えられる範囲での対応で差し支えないこと」を伝え、了解してもらえたら事前に用意した質問を投げかけます。質問の仕方は、「オープンクエスチョン」ではなく「クローズドクエスチョン(イエス・ノークエスチョン)」とします。もし、相手方から拒まれた場合はそれ以上は深追いせず、その時点で終了とします。

【良くない例】

 以前、帰院に勤務していた〇〇さんについて、当時の勤務態度や評価を教えてください

【良い例】

 以前、帰院に勤務していた〇〇さんについて、ご本人の経歴に●年から▲年の間、看護師長を担当していたとあるのですが、このことは間違いなかったでしょうか

 

【手順4】 再度、採用候補者へ確認

事前に把握していた情報と前の職場からの回答に相違があった場合、再度、採用応募者へ確認をします。この時点では、経歴詐称があったと決めつけるのではなく、真偽のほどは本人に確認します。

【確認の仕方】

 以前の職場に確認したところ、〇〇さんは看護師長という立場ではなく、あくまで一看護師として働かれていたとのお話だったのですが、どちらが正しかったでしょうか

 

繰り返しですが、リファレンスチェックはあくまで「事実確認」であるため、全ての採用候補者を対象とはせず、「どうしても確認(クリアに)したい」場合に限定的に実施することとなります。例えば、履歴書や職歴と本人の発言が食い違う・辻褄が合わない場合や、職歴等を事由に高い待遇を望む場合、事務長等の重要ポストを新たに採用する際などには有益と言えます。

リファレンスチェックを受ける際の留意点

自院にリファレンスチェックの問い合わせがあった際の対応についても確認しておきましょう。企業が退職者の「個人情報」を第三者に提供することは、個人情報保護法に抵触します。リファレンスチェックで得られる情報は、一般的にはこの「個人情報」に該当するため、企業側は本人に事前に同意を得る必要があります(前述のように、採用企業側が本人から同意を取っている場合は、その同意書を提示してもらうようにしましょう)。自院側で同意を得る場合、退職した方に対してその旨の連絡し同意を得る方法が一般的ですが、退職手続き時に予めその可能性を本人と協議しておくと、その後の合意形成の過程がスムースになります。なお、退職者からの要請があったとしてもリファレンスチェック自体に応じる義務はありませんので、院長などと相談した上で対応を判断することが良いでしょう。

組織としてのリスク回避と納得感のある採用を

一般的な中途採用者の採用コストは一人あたり80万円以上、看護師などの専門職はそれ以上と言われています。費用と時間をかけて採用した人材が何かしらのトラブルで入職の取り消し・早期離職となってしまった場合の損失は大きく、これらのリスクを最小限に軽減させる方法を検討しなければなりません。これらの採用手段の選択肢の一つとして、検討されてはいかがでしょうか。