国内の病床総数は減少傾向にあり、一般病床をはじめ精神病床・療養病床等においてもその傾向がみられます(表1)。その背景的要因には、人口減少等を理由とする病床利用率の低下や、医療従事者の不足が考えられ、特に昨今では感染症対策による業務量の増加、他院との人材獲得競争の激化などにより、病床規模を維持するのに必要な人員の確保が難しくなっています。このような状況下において、事業規模の見直しを検討する医療機関が増えています。事業規模を縮小したり事業を廃止する場合、その範囲に応じて必然的に人員構成の見直しが求められ、退職の選択を迫るケースも想定されます。今号では、事業規模の見直しに伴い発生する人員整理の進め方について解説します。

事業規模を見直すケース・タイミング

事業規模の見直しを判断するケースやタイミングは以下が考えられます。

  •  ・地域内の利用患者の減少
  •  ・新たな医療機関の出現等に伴う競争力の低下
  •  ・医療従事者等の人手不足
  •  ・代替わり・経営者の交代・事業譲渡などによる方針転換

 ・国や自治体等の政策誘導、病床機能再編

事業規模の見直しの一例

事業規模の見直しでは、主に以下のケースが代表的です。

  •  ・病床を縮小するケース

 (例:300床(6病棟)の病院が、一部の病床を縮小し、200床(4病棟)の病院へ見直す等)

  •  ・病床を縮小することで事業種別が見直されるケース

 (例:30床の病院が、15病床を縮小し、有床診療所へ見直す等)

  •  ・標榜する診療科を見直すケース

 (例:複数の診療科を標榜する診療所が、単科の診療所へ縮小する等)

  •  ・病床の廃止・閉院

単純に事業規模を縮小するケースや、事業の一部を切り離す(標榜する診療科を減らす等)ケースなどいくつかのパターンが想定されますが、いずれの場合においても都道府県の医療担当課との調整が必要となります。見直しの方向性や時期については所轄庁も交えて確定していきます。

人員整理までのスケジュール

所轄庁との調整がある程度図れると、人員整理に向けた具体的なスケジュールを検討します。人員整理は最低でも6ヶ月(望ましいのは1年)前から進めていきます。

 

①   収支シミュレーションの実施・必要人員(暫定)の検討

はじめに、事業規模を見直した際の収支シミュレーション・人件費シミュレーションを実施します。収支シミュレーションでは「オペレーションを成立させるためには何人必要か」ではなく「見直し後の事業規模では人件費をどの程度捻出することができるのか」を算出し、「暫定的」な必要人員数を決定します。オペレーションベースで検討すると「●●看護師と▲▲看護師が残れば全体で5名いればローテーションが組める」など属人的な偏ったシミュレーションとなってしまいます。この時点でどの職員が継続勤務となるか不明確なため、あくまで数値ベースで検証します。

 

②   職員説明会の開催

全職員に対して事業規模の見直しとそれに伴う人員整理の実施について説明します。説明会では、見直しに至った経緯、見直し後の事業規模を伝えつつ、人員整理の必要性について説明します。患者や地域住民など対外的なアナウンスの時期を伝えるとともに、それまでの間は第三者に公表しないよう注意してもらいます。なお、この時点においては具体的な人員削減数は公表しない方が望ましく、職員の意向を踏まえて確定する旨を申し伝えます。

 

③   意向調査の実施及び必要人員の決定

職員説明会を経た上で、退職希望の有無、継続勤務を希望する場合の勤務形態、等に関する意向調査を実施します。意向調査は個別面談の前に実施することで、暫定的な必要人員とのバランスを検証し、併せて面談の準備をします。

 

④   個別面談の実施

意向調査の結果を踏まえて、個別面談を実施します。本人の意向どおり勤務継続又は退職となる場合は大きな問題はありませんが、本人の意に反して、1.(退職の意向がある職員に)勤務継続を説得する場合、2.(勤務継続の意向がある職員に)退職を勧奨する場合、については事前の準備が必要です。前者については、勤務継続の可能性や条件を聞き出しその条件で雇用できるか再度検証し、難しい場合は新規採用に切り替える判断をします。後者については、退職予定者を経営者が恣意的に選定したと思われないよう、過去の人事考課の結果、出退勤の状況(私用などによる遅刻・早退・欠勤の頻度)、健康状態など、客観的な基準に基づいて判断した旨を伝えます。退職条件(退職金の増額等)や転職時のサポートなどについて、可能な限り退職予定者が有利となるよう配慮するとともに、雇用保険の取扱いについても説明します。

 

⑤   転職先の紹介(退職予定者のみ)

退職の意向がありかつ転職先の相談を受けた場合は、可能な範囲で再就職先を紹介します。いわゆる職業紹介として実施するのではなく、事業主の横のつながりなどを活用して、地域医師会の他の開業医へ相談したり、知り合いが経営している他の医療機関を紹介する手段が考えられます。

 

⑥   見直し後の勤務体制及び個別の労働条件の決定(勤務継続予定者のみ)

見直し後に継続勤務する人員が固まった後は、個別の労働条件を再度確認します。事業規模の見直し後に、勤務日数や1日当たりの所定労働時間、業務量などが見直される場合は、給与等の条件を変更することも想定されます。退職者との兼ね合いで役割が変わる(役職的立場になる等)場合もあるため、あらたな組織図を踏まえ検討します。

経営者サイドの意向

人員整理にあたって、院長等の経営者が「この職員には勤務継続してほしい」という意向を持つことはごく自然なことです。一方で経営者サイドの意向が全面に出てしまうと、職員が不信感を抱き、それが組織内に伝搬することで一斉退職が発生してしまうケースも想定されます。まずは職員の意向を尊重しつつ、説明会や個別面談を複数回にわたり行うなかで相互の意向を調整できるよう進めます。また、この間における情報の発信は平等性を保つことが重要であり、いずれかの職員に先立って相談したり意向確認を行うことなどは望ましくありません。情報発信の内容とタイミングについては、最大限の注意が必要となります。

※【人員整理までのスケジュール(6ヶ月の場合)】、表2 意向調査票のサンプル 参照

雇用保険(離職票の作成/基本手当)の取り扱いについて

いわゆる「自己都合退職」の場合、離職者は退職後すぐに雇用保険の基本手当を受給することはできず、原則2ヶ月間の給付制限を受け、かつ基本手当の給付日数も最大150日までとなります。一方、離職理由が「事業主からの働きかけによるもの」(いわゆる整理解雇)となる場合、離職者は給付制限を受けることなく、離職時の年齢と被保険者期間に応じて、最大330日分(45歳以上60歳未満で被保険者期間が20年以上の場合)の基本手当を受給することができます。 

 

事業規模の見直しを実施する場合には、ご紹介した人員整理以外にも、施設種別の変更や病床の返還手続き、患者への説明など多方面への対応が求められます。様々な場面で当初想定していなかった事態が起きることも考えられ、それは人員整理も例外ではありません。継続勤務する職員はもちろん、退職する職員が不安なく新たな道へ進めるよう準備を進めなければなりません。