
近年、自由度や所得の向上を求めてフリーランスとして働く人が増えています。フリーランスは特定の団体や企業に所属することなく個人で仕事を請け負うため、自身のライフスタイルに合わせて、仕事をスケジューリングすることができます。
従来、フリーランスは、雑誌等のライターやWebデザイナー、美容師、税理士などの業種に多いとされていました。しかし、働き方改革における副業・兼業の推進、コロナ禍を経て変化した企業の働き方などの影響により、現在では業種を問わずフリーランスを選択する人が増えており、看護師などのエッセンシャルワーカーもその例外ではありません。
自由度が高い一方で、委託元と個人(フリーランス)の間で、報酬の不払い・遅滞、一方的な解約、委託元からのハラスメントなど、雇用契約上は起こり得ないトラブルが発生することも事実です。これを受け、2024年11月から「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案」(フリーランス保護新法)が施行されます。
本号ではフリーランスの実態と新法の概要、フリーランス看護師を活用する際の留意点などについて解説します。
フリーランスの定義・特徴・実態
【フリーランスの定義】
フリーランスの定義は法律によって様々ですが、一般的には以下の条件に該当する者を指します。
① 特定の企業や組織に雇用されない
② 実店舗がない、従業員がいない
③ 特定の業務ごとに、依頼元との間で業務委託契約を結ぶ
これらに該当しない場合は、後に解説する「フリーランス保護新法」の適用となりません。なお、税法上の用語として「個人事業主」と表記されることがありますが、税務署に対して開業届を提出する場合はこれに該当します。フリーランスは開業届を提出することが原則ですが、会社員が副業として行う場合などは不要となることがあります。
【フリーランスの特徴】
フリーランスとして働く又は企業がフリーランスを活用する上でのメリット・デメリットは以下のとおりです。
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メリット |
デメリット |
フリーランス側 |
・ 働き方の自由度が高い ・ 職場内の人間関係(しがらみ)によるストレスが少ない ・ 働き次第で所得が増える |
・ 仕事(収入)が安定しない ・ 社会保険・雇用保険等の適用を受けない |
企業側 (委託元) |
・ 人件費(委託費)を抑えることができる ・ 繁忙期などに短期間の人手・戦力を確保することができる |
・ 研修訓練期間がないため、力量が想定に及ばないことがある ・ 具体的な指揮命令はできない |
特に看護師等のエッセンシャルワーカーがフリーランスとして働く理由には「自由度」と「人間関係」のほか、「専門的な技能・資格等を活かせるから」という理由も多いようです。
【フリーランスの実態】
内閣官房によるとフリーランスの人口は約460万人となっており、就業人口(約6,700万人)に対する構成割合は6.7%程度となっています。「令和4年度フリーランス実態調査」(内閣官房新しい資本主義実現会議事務局・公正取引委員会・厚生労働省・中小企業庁)では、以下の傾向が見られます。
・ 性別では男性が88.1%
・ (副業としてではなく)本業として従事している割合が81.4%
・ 業種別では多い順に、①サービス業(22.3%)、②学術研究、専門・技術サービス業(13.6%)、③建設業(12.6%)、④情報通信業(11.3%)、(※医療、福祉は0.6%)
・ 直近1年間の収入が「400万円未満」は全体の52%
・ 複数の現場(職場)を掛け持ちしている割合は34%
・ 仕事の獲得に際して、仲介事業者・仲介サービスを利用していない割合は78.7%
フリーランス保護新法の概要
2024年11月から施行されるフリーランス保護新法では、増加するフリーランスと企業間のトラブルを予防するため、企業(委託元)に対して以下を義務付けています。
取引条件の明示 |
発注者は、取引条件(委託業務内容・報酬額・支払時期など)に関して書面等で明示する必要がある |
報酬支払い期日の設定 |
発注者は、業務完了時から起算して60日以内のできるだけ早い日に報酬を支払わなければならない |
禁止行為 |
以下は禁止行為として認められないこと ① 受領拒否(成果物を受け取らないこと) ② 報酬の減額(発注時に合意した報酬額を理由なく減額すること) ③ 返品(成果物を返品すること) ④ 買いたたき(相場よりも低い金額での報酬設定をすること) ⑤ 不当な経済上の利益の提供要請(発注元企業の製品やサービスの利用を強制するこ と) ⑥ 不当な給付内容の変更・やり直し(当初の発注内容を一方的に変更して、やり直しをさせること) |
募集情報の的確表示 |
フリーランスの募集に際して、 ① 虚偽の内容を掲載したり、誤解を与えるような曖昧な表示はしてはならない ② 正確な内容で常に最新の情報を掲載しなければならない |
育児や介護に対する配慮 |
6か月以上の業務委託契約を結ぶ場合、フリーランスが育児や介護と両立できるように、申し出に応じて配慮をしなければならない |
ハラスメント対策に関する体制整備 |
フリーランスがハラスメント被害を受けることのないように社内における相談体制の整備や社内教育などの必要に応じた体制を講じなければならない |
中途解除等の事前予告 |
6か月以上における業務委託契約を中途解除する場合には、30日前までに必ず予告する必要がある |
フリーランスのなかには、以前働いていた職場にフリーランスとして復帰するケースなどもあり、その際に従来の雇用契約の延長のような取扱いをしてしまうと、トラブルが生じやすくなります。まずは、委託する業務の範囲内容、期間、報酬をきちんと設定し、募集時及び委託契約の締結時に明確に示すことが重要となります。
フリーランス看護師へ業務委託をする際の留意点
【委託業務の内容等の明確化】
フリーランス看護師の業務内容としては、以下の需要があります。
・ 病院・診療所・介護施設などで常勤看護師のヘルプ
・ 訪問看護(登録制)
・ 健診スタッフ(学校・企業など)
・ 研修会の講師
・ アートメイク看護師(主に美容医療系クリニック)
看護師等の必要資格を有しているからと言って、即戦力として医療サービスの一部を担えるとは限りません。まずは代替性が高い(難易度・継続性が高くない)業務をピックアップすることが必要となります。
【コンプライアンスの遵守、雇用契約との区別】
フリーランス看護師に業務委託をする場合、先述した新法の内容を遵守することに加え、雇用契約に準ずる取扱いをすることがないよう留意しなければなりません。雇用契約を結んでいなかったとしても、以下のようなケースでは「労働者性」が認められ、労働基準法などのルールが適用されることとなります。
・ 業務従事の指示等に対する諾否の自由がない
・ 常に委託元からの指揮監督下に置かれている
・ 業務を遂行するにあたり必要以上に拘束されている
例えば、一旦決まっていた仕事場や時間帯の変更が生じた場合は、原則として委託業務内容の一部変更が双方合意のもと行われるべきところ、この諾否の自由がない場合などは「雇用されているのと同等」と見なされます。
【職場内の他のスタッフとの共有】
医療機関や介護施設で働く場合、フリーランスと言えども他のスタッフとの連携や協働は不可欠となります。フリーランスへの接し方について、職場内の理解がないと「新人社員」や「派遣社員」のように必要以上の業務指示や監督・拘束などを行ってしまう可能性があります。業務上の目的は同じであっても、働く上でのルールが異なる点を院内で共有するとともに、不当な差別をしないことなどに努める必要があります。
人手不足が深刻な医療業界において、今後、フリーランスの活用は選択肢の一つとなり得ます。正しい理解とルールのもと有効な手段として利用できるよう、既存のスタッフやフリーランスが安心して働ける環境を整備することが求められます。