遠隔診療を巡るこれまでの動き

 インターネットなどの情報通信技術を用いて医療を行う「遠隔医療」のうち、医療機関と患者間で行われる「遠隔診療(D to P)」については、1997年、当時の厚生省からの事務連絡により医師法第20条(無診察治療等の禁止)に抵触するものではないとし、「条件つき」で解禁されていました。その条件とは、「遠隔診療が許されるケース」として、「離島、へき地の患者の場合など、直接の対面診療を行うことが困難な場合」、「特定慢性期疾患の患者など、病状が安定している患者の場合」に、患者側の要請に基づき、患者側の利点を十分に勘案した上で「直接の対面診療と適切に組み合わせて行われること」というものでした。この表現により遠隔診療の実施にあたっては、要件が限定されているとの誤認識が広がり、遠隔診療への積極的な取り組みが進まなかったと考えられます。

 こうした誤解を払拭するとともに正しい解釈を明らかにするため、厚生労働省は2015年8月に事務連絡を発出しました。この通知では、これまで「条件」とされてきたものはあくまでも例示であるとともに、要請に基づき、患者側の利点を十分に勘案した上で、直接の対面診療と適切に組み合わせて行われるときは、こうしたケース以外でも遠隔診療を行っても差し支えないことが示され、遠隔診療が幅広く議論されることとなりました。(図1参照)

導入によるメリットと導入に適した疾患

 遠隔診療については、内閣府の「規制改革会議」の中でも、医療・健康推進戦略の一つとして、推進や仕組みづくりに向け議論されてきました。本年4月に開催された政府の「未来投資会議」においても、最新の技術進歩を取り入れることで、医療の質や生産性が向上するよう2018年の改定に向けて、診療報酬上の評価を行っていく考え方が示されています。今後、対面診療と適切に組み合わせて提供することで、かかりつけ医による日常的な健康指導や疾病管理の質が飛躍的に向上するとともに、慢性疾患の重症化予防等の領域でも効果が期待できるとし、具体的な取り組み事例として、「オンライン診察を組み合わせた糖尿病等の生活習慣病患者の効果的な指導・管理」や「血圧、糖尿等の遠隔モニタリングを活用した、早期の重症化予防」などを挙げています。

 2014年の厚生労働省の医療施設調査によると、遠隔医療システムを導入している医療機関は病院が1,579か所、一般診療所が3,150か所となっています。その多くは主に医療機関間(D to D)が行う遠隔画像診断や遠隔病理診断で、遠隔在宅医療を実施する機関は562か所(病院18か所、一般診療所544か所)にとどまっています。

 遠隔診療は、病気の早期発見や重症化の防止により生活の質(QOL)の向上につながるだけでなく、従来の対面診断で必ず発生していた患者の通院にかかる移動時間や交通費の軽減、診療や会計を待つ時間などの削減が可能なります。医療機関としても、治療の継続率が高まることによる収益性の向上やニュース性(革新性)による集客効果の高まり、適時的確な診療機会が確保できるなど、さまざまなメリットがあります。

 前述した事例などにもあるように、遠隔診療は、慢性的な症状を伴うものの比較的病状が安定している患者のフォローアップや、前回と同じ処方の患者には、治療負担の軽減や継続性の観点からもその効果が期待できます(表1参照)。また、保険診療の場合、初診は必ず対面である必要がありますが、自由診療の場合は、適切に対面診療と組み合わせられるという前提で初診から遠隔診療を行うことも可能なので、特に相性が良いと言えます。

導入にあたっての課題の解決

 高齢化を背景とした通院困難者の増加や在宅医療、生活習慣病予防に対するニーズは、今後ますます高まっていくものと思われます。同時に、人口減少、少子化による医療人材の不足による医療体制の弱体化が進むことが懸念され、医療資源をいかに効果的・効率的に活用していくかが課題となっています。

 モバイル機器やウェアラブル端末など新たな機器が次々と開発されるとともに、データの収集や解析にかかる環境も日々進化を遂げており、今後こうした課題を解決していく一つの方策として、地域や疾病を問わず、さまざまな場面や手法により遠隔診療が急速に広がっていくものと思われます。

 一方で、医療の現場からは、遠隔診療により正しい診断や治療に結び付けられるのか、医療過誤があった場合の責任の所在はどこにあるのかなど、実際に導入するにあたり不安視する声があることも事実です。

 医療倫理や制度、ガイドラインの再定義の必要性、システム等の構築、維持管理にかかる費用負担や人的負担、教育の体制づくりなど、導入にあたっては多くの課題があります。患者や家族の安心・安全が保たれるよう、疾病の種類や患者がどのような状況であれば遠隔診療に適しているかについてのエビデンスを積み上げ、最新の技術を取り入れることにより、新たな時代の診療の在り方を実現すべき時期にきているのではないでしょうか。